「天下茶屋」の松本幸四郎の「二役」を切り替えるさまはシェイクスピアを考える際にもとっても示唆的で | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 「敵討天下茶屋聚」(かたきうちてんがぢゃやむら)のはなし、つづきです。

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 対照的な性格の二役を、一人の看板役者がやる、これが歌舞伎の醍醐味です、てなことをシェイクスピアの話を延々と書いているうちに何度も繰り返し語っている私ですから、これは嬉しい演出です。となると、「二役をどうやって入れ替わるか」というとこが、個人的に注目になります。
 さすがに猿之助の芝居のように、同時には舞台に出ませんが、短い時間で早代わりが出来るように「見せる」ための基本的トリックは、やはりありました。


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 元右衛門は基本的にダメなヤツです。酒を飲まされて酔っ払ってフラフラしてるところを捕まり、植え込みのセット(書割)の向こうに追いやられます。そこで眠っているという設定です。やがて巨悪・東間三郎右衛門が登場し、早瀬玄蕃頭を殺し、花道から堂々と去っていきます。やがて善玉方が集まってきて「大変だ」と騒いでいると、物陰から目を覚ました元右衛門がヒョッコリ顔を出して、みんなに「何やってたんだ」と責められます。実は、最初の酔っ払って出てきた元右衛門が「影武者」で、ロレツの回らないというムニャムニャした芝居でごまかしていたわけです(客席の上目から見てると、よく分かります)。 
 ラストシーンの天下茶屋、行列にまぎれこんでいた元右衛門が善玉方に見つかり、よってたかって斬られる、そうするとまず、舞台上の大木や植え込みの向こう側に追いやられます。そして、いったん舞台に戻り、「ああああ」とか言いながら観客に幸四郎の顔を見せて、もういちどセットの向こうに隠れます。ここがミソですね。そしてもう一度、後ろ向きになって出てきて(これが影武者です)、そのまま倒れて死ぬわけです。しばらくすると舞台が回って、こんどは真の仇、東間三郎右衛門が乗物から「いかにも巨悪!」といった形で現われ「ちょこざいな!」と一喝します。
 いずれのシーンも、同時には舞台に出ていなにので、普通に見ていると「影武者を使った」というのは分からず、「おお、ずいぶん早く着替えたものだなあ」と感心する、だけかも知れません。それも面白いものです。

  

 このへんのはなし、シェイクスピア劇のあれこれを推理する私のさまざまな仮説(左欄「ブログテーマ」のシェイクスピア」のところを参照してください)を補強する、とってもいい材料であるとひそかに思っているところなんですが。そのはなしは、また。


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