「ハムレット」を解く(5) 「生きるべき」だったんじゃないですか、何が何でも? | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 NHK「新・三銃士」が終わってしまいました。もんのすごく悲しいです。が。土壇場で「ダルタニアンの出生の秘密」が飛び出したのは、さすがの私もびっくりしました(原作読んでないからな)。

 そういえばディカプリオ主演の映画「仮面の男」は実は三銃士の続編だったけど、これも主人公に出生の秘密があったな。しかも今度はダルタニアンがその秘密を「しでかす側」だったっけ。実は「そういうテーマ」で繋がってたんだね、デュマの大河ロマンは。

 「物語」の主人公には、出生の秘密はつきものなのです。お約束といってもいい。「源氏物語」だって「平家物語」だってそうでしょ。「ハムレット」がそうでないほうが、おかしい。


 ガートルードは、ハムレット王子を産んで以来、先王とのあいだに他に一人の子供も作っていません。何故なんでしょうか? 理由はおおよそ推察されます。

 クローディアスは、ガートルードと結婚して王位を手に入れる(この時点で少なくともアラフィフです)まで、結婚していなかったのでしょうか? 子供はいなかったのでしょうか?

 いないんです。いればその子を跡継ぎにしようとするはずなのに、そんな素振りもないからです。クローディアスは、この歳まで独身だった。理由は言わずとも分かります。

 とにかく。結果的にハムレットは、誰にとっても「かけがえのない一人息子」だということです。そして「デンマーク」という国家にとっても、です。「トゥー・ビー、オア、ナット・トゥー・ビー」、生きるべきか死ぬべきか、って、何を甘ったれたことを言ってるんですか、三十にもなって。彼はほんとうは、何が何でも生き残らなけれればいけなかった人間だったはずです。父のため、母のため、そして国のため、大勢の国民のために。


 ハムレットは、父王の死によって国外追放が解かれ、新王によって王位継承者に指名されます。こんな幸福はない、と普通は思わなくちゃ嘘です。しかし、そうは思えなかったのが彼の悲劇です。「父の亡霊」の教唆もあったにしろ、根本的は彼の性格です。コーディーリアと同じ種類の潔癖症ともいうべき正義感が、自分自身とともに国を滅ぼします。

 国がひとつ、滅んだんですよ。ハムレット王子の「正義」のために。


 「ハムレット」は決して勧善懲悪の物語ではありません。極悪人は誰一人出てきません(敢えていえば父王の亡霊だけ)。むしろ、「ロミオとジュリエット」と同様、、ひとつ違えば全員が幸せになれたはずの世界が、誤解と無知と誤った正義感と、そして運命の悪戯で捻じ曲げられ、全員が悲劇的な最期を遂げる、という、恐ろしくも悲しい物語なのです。はい、そうなんですよ。信じようと信じまいと、それはあなた次第です、けどね。

 つづきます。