『営業SMILE』 第一章 連載.26
街のいたる所には飾り付けが施されたモミの木や、赤い服に白く長い髭のおじいさんの人形が置かれていた。真っ赤な鼻のトナカイは、笑われるどころか皆を幸せな気分にさせる。今日はクリスマス・イブ。街中が色とりどりのイルミネーションで輝き、冬とはいえ暖炉に火がはいった部屋のように暖かみを感じさせた。香林坊から竪町・片町へとつづく通りには、恋人達が幸せそうな表情を浮かべその特別な一日を楽しんでいる。今日だけは彼等、彼女等が主役だった。
「兄ちゃん。今日暇だろ?どこか飲みに行く?」
同じ店舗で働いている弟の智樹が兄を気遣ったのか珍しく飲みに誘ってきた。来客が少し落ち着き荷出しをしていた雄司。弟の方に振り返ると笑顔で答える。
「悪い。今日は予定が入っているから」
そういって再び業務へと戻る。
「そうなんだ。どうせまた東山さんと片町に飲みに出るんじゃないの?せっかく良い店見つけたから連れて行ってやろうと思ったのに」
「あいつなら今日は富山の飲み屋でクリスマス・ライブするって言ってたぜ」
「何?東山さんバンドなんてしていたの?」
「ジャズバンドらしいけどね。サックス吹いとるわ」
「へぇ……意外。兄ちゃんがギター弾いていたのも今にしたら不思議だけどね」
智樹は雄司をからかいながら荷出しを手伝い始める。
「うるさいなぁ。人が真面目に仕事している時に……。ところで」
「……何?」
「なんて店に行こうとしていたの?」
「結局気になっているんじゃん。中央ニュークリア・ビルに最近できたクラブ・カルテットって店だよ」
「なんだ。キャバか」
「何だ……って。兄ちゃんに言われたくないなぁ。今日だって東山さんとの約束じゃないんだったら、どうせ亜由美ちゃんの所だろ?」
その時まるで今の会話を聞いていたかのように、雄司の携帯から浜崎あゆみの曲が着信メロディーとして流れる。その意味なぞ誰も知る由がないのに、慌てて訳の分からない取り繕いをする雄司。
「馬鹿。言霊って知っているか?言葉は口に出すと、その内容を具現化する力があると……」
「兄ちゃん。携帯でなくていいの?」
智樹が冷ややかなで視線を投げかけてきた。
「うるさいなぁ。」
そう言葉を吐き捨て、雄司は裏へと急いだ。
〔To be continued〕
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