iPadで悩みの増える出版社 | 外資系 戦略コンサルタントの着眼点

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iPad
による電子書籍が最近各所で取り上げられていますが、こうした電子書籍は新たなメディアを作り上げる可能性があります。


当面は雑誌や書籍がそのままiPadなどの端末上に表示されるものが電子書籍と呼ばれるのでしょうが、すぐに紙の書籍の範囲を超えた“新たな電子書籍”が登場することは想像に難くありません

例えばDisneyが提供しているDigital booksですが、これまでもPC上では500コンテンツが提供されていましたが、iPadが広がることでより紙の本の代替として利用されていくことが予想されます。

下記にYoutubeからのデモを付けておきますが、こうした感じで、本というよりもゲームやアニメーションに近いものになっています。



紙に字と絵で印刷したものがこれまでは本と呼ばれてきましたが、デジタルでは、端末に朗読させたり、絵を動かしたり、リアルタイムの情報に更新したりすることができるようになるので、何を電子書籍とするかという定義は極めて難しくなります。


それに伴って悩みが増えるのは出版社でしょう。

著者はこれまで通り著作活動をおこなっていけばいいのですが、出版社はその著作物を紙への編集だけでなく、デジタルへの編集も手がける必要が出てきます

上に述べたようなゲームやアニメとの融合まではいかないとしても、ミステリー小説やマンガであれば、少なくとも大事なシーンはページをめくった先にあるとか(特に小説だとフォントの大きさでページ数が変わるようになるので、こうした配慮が必要です。)、インパクトを与えたいところで音が出たりエフェクトがあったりするようなことが当たり前になる可能性はあります。


海外の出版社はこうしたニーズに対して対応する能力を比較的持っていますが、日本では対応出来る出版社はそんなにありません

一番の大きな違いは海外の出版社はTime WarnerDisneyNews corpViacomなど、メディア・コングロマリットが多く、アニメや音楽、映画などとの融合がし易い立場にあるという点です。(フランスではアシュット、ドイツではベルテルスマンなど、欧州でも強いコングロマリットがあります。)

一方、日本では、日経、朝日、読売などはメディアとしてのグループを持っていますが、出版業界への影響はそれほど大きくなく、大手の講談社、小学館、集英社などは、電子化に対する編集の能力はこれから蓄積していかないといけないような状況です。

積極的に取り組める体制が整っているとすれば角川グループでしょうか。

こうしたデジタルへの編集スキルや能力を出版社が蓄積していくことは、Google editionGoogleの電子書籍)などによる出版社の中抜き議論がでる中で、出版社としての意義を維持していくために必須となると考えます。

一方で出版業界では、成熟した市場の中、各出版社の位置付けというのは大体定まってしまっていますので、新たな電子書籍への編集技術という点で差別化をしていける出版社が出てくれば、著者の囲い込みやアウトソーシングサービスの提供を通じて、デジタルの世界での新たな秩序を作れる可能性もあるかもしれません。