ブルーに染まる幻想空間「喫茶ソワレ」 | ジャック・ポイ Film

ジャック・ポイ Film

                


@京都


京都には、夜の海みたく濃いブルーに
染まる喫茶店があるという。
そこは京都四条駅から高瀬川を渡った
直ぐの場所。

桜と共に異国の観光客で華やぐ古都の
中心街は、日本だと言うのを忘れさせ
てくれる。

しかし、延々と続く人波に、体力と精
神力が追いつかず、旅行雑誌で調べあ
げたカフェやデザート店は、どこも遊
園地の列のごとし。

どこでも良いので休憩したい…悪魔の
囁きがかすめるも、失われつつある童
心と体力に抗ってみよう。京都旅行1番
の目的地、神社仏閣を差し置いて老舗
の喫茶店へ望みをかけた。





人波から逸れ、横道に入ってすぐに入
口はあった。東郷青児の絵のネオン看
板が目印になっている1948年創業の純
喫茶ソワレだ。





扉を開けた瞬間に真っ青に染まる店内
は、昼間なのに夜のような、異世界。
喧騒もはるか遠くへ引いていく。

無雑作に掲げられた東郷青児の絵の数々
が妖しくも幻想的な店内を飾り立てる。
ここは氏のゆかりの地でもあるようだ。

静寂の割には1階は満席、BGMはなく、
ヒソヒソと話す声を聴きながら2階へと
上がる。

2階窓際は常連さまがキープ。この季節
は桜が望めるようだ。

無事、座席に着くことが出来た。やはり
純喫茶は信用できる。すると真っ黒なメ
イド服を纏った者が、注文を取りに来た。
ここの看板メニュウ、ゼリーポンチがお
勧めのようだ。





赤青黄緑色のゼリーが宝石みたくサイダ
ーの中に浸かった、とても美しい一品。

口の中で荒々しく残る食感は、家族の団
欒でごくたまに出してくれたフルーツポ
ンチみたく、素朴で庶民的。シュワシュ
ワッと舌に残るサイダーは、お口の中が
清涼感で満たされる。

贅沢な味わいではない、美しい見た目と
思い出を呼び起こすデザート。














青い幻想的なブルーと共に心まで落ち着
き浸りきってしまった。


後で知った事だが、店名の“ソワレ”は
フランス語で“黄昏・宵”。陽がかげり、夜
の闇が降りるころ、ますます特別な夜会
が開かれるのだろう。1人で読書や考え
ごとに没頭するも良し、友人や大切な人
と特別な時間を共有するのも良し。


異世界の純喫茶ソワレ。その風情は、旅
の思い出をより一層、深く濃く彩るに違
いない。