海と毒薬 | 桜さんの映画鑑賞日記

海と毒薬

海と毒薬  1986


ジェネオン エンタテインメント
海と毒薬 デラックス版

監督: 熊井啓

出演: 奥田瑛二 勝呂研究生
渡辺謙 Ken Watanabe 戸田研究生
岡田真澄 ハットリ調査官
成田三樹夫 柴田助教授
西田健 浅井助手
神山繁 権藤教授
岸田今日子 大場看護婦長
根岸季衣 上田看護婦
草野裕
辻萬長
津嘉山正種
千石規子
黒木優美
戸川暁子
田村高廣 Tamura Takahiro 橋本教授




太平洋戦争末期に実際に起こった米軍捕虜に対する生体解剖事件を描いた遠藤周作の同名小説を、

社会派・熊井啓監督が映画化した問題作。

敗色も濃厚となった昭和20年5月。九州のF市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。

医学部の研究生、勝呂と戸田の二人は物資も薬品も揃わぬ状況下でなかば投げやりな毎日を送っていた。

そんなある日、二人は教授たちの許に呼び出された。それは、B29の捕虜8名を使った生体解剖実験を手伝えというものだった……。




ベルリン国際映画祭

審査員特別賞・銀熊賞

ブルーリボン賞

監督賞


★★★★★★★☆☆☆

すごい映画を見せてもらった・・という感じですね。

日本の黒い夏 冤罪 の熊井監督の作品を探していて見つかりました。

医療サスペンスになるし実話にヒントを得たミステリーにもなります。

邦画でこの世界をコレだけ真面目に描けたのはすごいことです。

淡々と進んでゆきますので客観的に見るしかないので、

主人公の奥田瑛二と視点は近くなると思います。

びっくりしたのが時の人渡辺謙の若いこと。

気がつきませんでした・・

見る前から「白い巨塔」のような医療ドラマかな?と予想していたのですが、

もしかしたら医療ホラーにも社会派サスペンスにも属するかも。

国際映画祭出品作で世界的にも認められたこの作品は、

なんと86年作なのに白黒です。

なぜ白黒なのか疑問に思いただ気取ってるだけかと観ていましたが、

白黒でなければリアルな手術シーンは再現できないかも。

カラーであれば単なるキモイ映画になっていたかもしれない。

このたった2色のメリハリが社会派映画としても見られるような演出になっています。

難を言えば世界を意識したのか外人や日系(岡田真澄)の使い方が・・

この時代(いつの時代もですが)の日本の医学界、

戦争時の退廃的な生き方生かされ方、

文学的でもあるし過度な演出による娯楽的な残酷シーン・・

邦画でもこういう作品があったんだなぁと感心。

渡辺謙のセリフが的を得ていてそれでもなんかなぁと・・

なぜか戦時下だから人体実験をするっていうのは無理やりな説得力ある。

無差別に病院や公共施設も破壊したアメリカ兵だから、

人間ではなく物として扱うから死ぬまで実験をするというのも、

患者はどうせ死ぬんだから、

戦争で死ぬよりも実験に使うほうが世のためになる、

こういうことが本当に行われていたとしたら、

医学の発展とは犠牲の元なんだと暗くなります。

見終えたあともドヨ~ッと暗いまるでホラー映画のようなのですが、

見ごたえのある演出と感情移入さえ許さないような乾いた演技、

戦争映画を根本的に嫌いな私もこういう切り口なら観られます。

どことなく巨匠シドニー・ルメットを思い出しましたが、

それは言いすぎでしょうか・・

誰に感情移入できるか、

誰にもおそらく主人公にでさもできかねないのに、

実験手術されるアメリカ兵捕虜を好奇心で取り囲む日本兵。

彼らと同じ好奇心でこの映画を観ていることに気がつきました。

その後味の悪さも何か問いかけていて怖い作品でした。