「変だなぁ」
N氏はこのセリフを連発し始める。
あたりは夕もやが立ち込めはじめるも、一向に廃線
らしいものは見当たらない。
沢登りの最中、ふと彼は立ち止まった。
「何かあった?」と言うと、「いえ、この沢の上ではなく、あちら
側なのではないのかと。」

さっそく、私は彼に私の双眼鏡を手渡し、遠景を見てもらった。
「わからないけど、あちら側にある気がします。」

で、沢から上がり、10分ほど歩いたところだろうか。
「これは、枕木だ!」
N氏が叫んだ。


門外漢の私は
「さあ、これで満足でしょ。そろそろ帰りましょう。もう暗いし。」
というと、
「レールを見つけるまで帰れません!」と。ああ、こりゃ、真性の
鉄ちゃんだ。
で、しかたなく、この道をさらに進むと・・・・・・
「でた!レールだ!レールを発見した!」


レールの周りで、狂喜乱舞するN氏。

狂喜乱舞のN氏
門外漢の私は
「さあ、これで満足でしょ。もう暗いから帰ろうよ。」と言うと、
「何を言っているんですか。レールが2本並んでいるちゃんと
したものを見ない限り、帰れません!」と。
こ、これは、悪性の鉄っちゃんだ。

で、しばらく行くと、こんなものも。これはかなり古いヤカンだ。

ヤカン
私たちは、夕もやの中歩き続けた。そして、ついに・・・・・

レール
ここは、おそらく、切り替えのところだろう。
この「奥千丈林用軌道」というのは、ここら辺で林業が盛んだった
遠い昔、切り出した木材を人力で運搬するためのものだった。
ああ、この夕もやの中、目をつぶると、袢纏を着た屈強な男たちが
木材を満載したトロッコを、力の限り押している姿が見える気がする。
あの鮮烈な沢の水を、先ほどのヤカンで飲んでいたのだろうか。
時代は変わり、林業は廃れ、すべては夢の跡になってしまった
セピア色の景色。

切り替え部か
軌道の跡をずっと歩いたが、ここでわからなくなってしまった。

この先は・・・・
N氏は「明日早朝から、この先を探しましょう。」と言い出した。
骨の髄から鉄ちゃんだのう。この人は生まれ変わっても「鉄」
やっていそうな気がするなぁ。
とにかく暗くなってきたので、一度撤収。
車まで戻って、ベースキャンプを作る。
疲れていたが、腹が減っていたのが勝り、ゴージャスなステーキ
を冷えたビールで胃に流し込む。恥ずかしながらあまりに疲労
していたからか、テントの中で気を失うように夜8時から夜中12時
くらいまで寝入ってしまう。

ベースキャンプ

夜中に起きると・・・・・森の木陰からやたら大きな満月が見える。
そうか、今日はスーパームーンだ。地球を回る月の軌道は実は円
ではなく、楕円である。つまり、地球と月の距離は近づいたり離れた
りしているのだ。で、一番近づいた時の満月が「スーパームーン」
今回は通常より1割くらいでかいようだ。ウィスキーを飲みながら
「スーパームーン」のお月見、それもこんな大自然の中で、とは
なんて贅沢なんだろう。

スーパームーン
で、そのあと、ぐっすり寝ていると・・・・・
朝、テントをたたく、凄まじい雨音で目が覚めた。
なんと・・・・土砂降りだ。

朝
外に出しっぱなしの機材はびしょ濡れ。

土砂降り
とにかく、雨がちょっとでも小降りになった時を見計らって
撤収!

撤収
しかし・・・・・真性鉄ちゃんN氏は「今から、あの廃線の続きを
探しに行きましょう!!」と言い出した!

昨日の強行軍を思い出して、ぞっとした。沢の水量もこの雨で
とんでもなく増えているだろう。土砂もゆるくなって、どこが崩れ
てもおかしくあるまい。

「こんな、雨なんて大したことはありません。地質調査では
通常業務です。軌道の続きを、軌道の続きを探索に行きま
しょう!」という目に異常な光をともしていたN氏を

「俺は、俺は、人間だもの!みつお
という感じで強引に説きふせ、帰路についたのであった。

とちゅう、初狩PAで「初狩カツカレー」なるものを食す。
店内、混んでいたので、そとのテラスで食べることにする。

初狩カツカレー
雨もどうやら上がってくれた。で、食べようとすると・・・・・
あれ?

外のテーブル
こんなところに・・・・

ツノマタタケ1
れいのキノコ「ツノマタタケ」が・・・・・

ツノマタタケ2
キノコというのは、ほんとうにどこでも生えてくるのだなぁ。

さて、この後、何とか帰宅。翌日は、テントをはじめ、すべて
の機材を天日干しにしてから片づける、という膨大な仕事が
あったのだった。
まあ、けど、いろいろあって、楽しめた旅行ではあったよ。うん。
帰りの車中でN氏が「来年、来年こそ、あの廃線の先を探しましょう。
来年までこれを目標に生きていきます!」というのは、ちょっと
怖くはあったのだけどね。

                           ~終了~