中野署から拾得物の葉書が届いた。

薬、手帖、本、名刺。

どうやら今はあまり使っていない名刺が手帖のなかに挟まっていたらしい。

これは必ず出て来るとは思っていたが、人の記憶とはこんなにもいい加減なものか。

今日も帰り道で、「あんた鞄なんか持ってなかったよ」の目撃証人4人めに出会ったばかり。

ということは、店がはねたあと店員の誰かが、交番に届けてくれたのだろう。

小物なら、たとえば傘とか携帯とか、ブリーフケースの類なら店に置くかもしれないが、

嵩張る鞄を置く場所もない。トラブルのも迷惑だし賢明な処置ではある。

あそこでは一度、携帯を忘れたことがあって、そのときは「忘れ物だよ」と翌日、手ずから渡してもらった。

鞄は初めてのことだ。

目撃証人4人目は、当日もそこであった同じ場所でまた会うというご縁。

今日はそこにいつも座っている手相見と立ち話しているところだった。

手相見はアリス・ミラーのあまり知られていない、しかし絶対的名作である、

『魂の殺人』を教えてくれた人物。

「親は子どもに何をしたか」という、一見なんてことのないサブタイトルが、

その深淵さを物語る。そいういう本質を突きすぎて、学界から遠ざけられてしまったドイツの心理療法家の本である。日本では唯一、斎藤学がまともに取り上げているという。

A.ミラー, 山下 公子
魂の殺人―親は子どもに何をしたか