予備校教師がお題であります。
正確には教師ではなく講師ですが、講師には専任講師と非常勤講師があります。
前者は、講義終了後にも講師室に残る時間が長く、それ故、教科以外の相談にも乗るカウンセラー機能も有しています。

予備校という呼称もなんとなく大学受験用というニュアンスがこもっており、中学・高校受験用は塾、幼稚園・小学校受験用はお教室と呼んで区別しています。

お教室はジャックやこぐま会、
塾では、サピックス、四谷大塚、日能研、浜学園、希学園などが大手と呼ばれますが、
大学受験ではぶっちぎりで三大予備校に集約されています。
駿台、河合塾、代ゼミに逆らえる大学関係者は、世間知らずの東大教授くらいです。

その三大予備校において、枝豆の東大数学やら、太郎の物理、小娘の古文 などと、名前を教科の前に付けてもらえるようになれば、この世界では成功者の仲間入りです。
金のブレスをしてヤクザまがいの日本刀を振り回しても、それは先生の芸風だから、と笑って許されます。

このようなカリスマ先生になると、授業前、教壇には山のような貢ぎ物が捧げられます。
これは後に、デビュー間もない若手講師の餌としてお下げ渡されます。
カリスマ先生のひとこまは若手の十倍は下らないでしょう。参考書も飛ぶように売れます。
毎年の専任契約時には契約金や移籍金も出ます。

年収は超売れっ子なら片手はいくんじゃないでしょうか。
教師だと思えば破格かもしれませんが、彼らは教師でも講師でもなく、教祖であり導師です。
迷える小羊を受験というレースに導き、勝利させる、それが彼らの仕事なのです。

そんな予備校講師を、高校教師から小学校教師までが口を揃えて非難します。

子供たちの評価は、点数だけではないはずだ。などと、お為ごかしの正論を吐きながら、彼らは勉強の本質ではなく、受験テクの営業マンだなどと非難する教師のみなさん、

断言しましょう。受験生は、あなたの戯言よりカリスマ講師の言葉を信じます。
上位校を目指す小学生から高校生まで、学校は骨休みに行く場所と断言していることに気付かないとしたら、
あなたは、やはり子供の心が読めないダメ教師です。
わかっているのに無責任な正論を吐いているならば、それは既得権にしがみついた保身の塊、教師以前にダメな大人です。

受験生は、能力がないくせに地位をひけらかす大人を蔑み、一途に自分を志望校に入れようと身体を張った講義をしてくれる予備校教師に心酔します。
やればできる
ほら、できたじゃないか
と、つまらない教材をエンタメに変える魔法は一流講師だからできる話芸です。

全身全霊で演じる予備校講師にも旬があります。
毎日毎日を何年もやれば、やがてエネルギーが尽き、芸に勢いがなくなってきます。
受験生はシビアです。話芸の低下を敏感に感じると、すぐさま別のパワフルな講師に乗り換えます。
冷徹そのものです。

開講日から終講日の生徒数の減少は、講師力をはかる唯一のバロメーター。
旬を過ぎた元カリスマはコマを減らされ、やがて中小予備校へと流れていきます。
この世界は過去の栄光や実績は無関係、常に受験というネタをハイテンションで演じ続けることを要求されるのです。

わたしは、今の小島よしおが、かつて活躍した予備校教師の断末魔に見えて仕方ありません。