まで少年ジャンプで「サムライうさぎ」を連載していたかたの短編集で、描き
おろしを合わせた5つの短編がのっています。
そのなかのひとつで、本のタイトルにもなっている「月・水・金はスイミング」
は、ちかくに山の見えるちいさな町での、オサムくんという男の子と有川さんと
いう女の子のお話。学校では同じクラス、同じ送迎バスでスイミングスクールに
通っている、けれど接点はほとんどないふたりの、もうすぐ中学生も終わりの
日々が切り取られています。
映し出されているのは、推理小説が好きで運動が少しニガテ、ちょっとだけひとと
変わったところのある有川さんの姿や、活発で、クラスでも割と人気のあるオサム
くんの姿。それから、窓の外をながめていると、有川さんのひとりごとや友だち
とのおしゃべりがきこえてくる送迎バスの風景と。
オサムくんたちがなんらかの事故のすえ、送迎バスの中に二人っきりで取り残さ
れるとか、有川さんがじつは難病を抱えていたとか、スイミングスクールが爆発
するとか、そういう少年マンガらしい、派手な事件が起こることはありません。
週刊連載の連載枠を勝ち取るためのプロモーションとするならば、すこしおとなし
すぎるところはあります。オサムくんだって、スーパーパワーをもった超人や、
時代を突き破る感性をもったエキセントリックな主人公じゃない。
けれど、ここでは確かに、少年マンガらしく「戦い」が、もうすぐ中学生が終わる
男の子にとっての「戦い」が描かれています。
恋とか愛とかをはじめるもっと前の、「あのひととつながってみたい」という
頭の中の世界から、一歩を踏み出すこと。
おそらく、いま日本で漫画を読んでいる十代以上のひとならば誰だって経験した
ことのある、ひょっとしたらいまだって継続中の「戦い」。
えっ話せばいいじゃんとか、そんなことで?とか、ざっくり片付けてほしくない
気持ち。
オサムくんの共稼ぎの両親の話であるとか、いまは二段ベッドの上が空いてる
団地の一室であるとか、有川さんのでっかいお屋敷であるとか、物語の進行に
直接かかわっているわけではないディティールの数々が、「戦い」をじわじわ
と彩っています。
短編集の5つめの描きおろしは、この物語の続きの「マドカさんは知らない」。
「月・水・金はスイミング」がオサムくんサイドとするならば、こちらはマドカ
さん…有川マドカさんサイドのお話です。「月・水・金はスイミング」のように、
また、ほかの福島鉄平さんの漫画世界がそうであるように、あぁソレ、ほんとう
は言いたいけれど言いづらいからやめよう、みたいな、日々やりすごしている
つもりでも、気づけば心の温度が1度くらい下がっているような、ちょっとした
痛みに、あたたかく、寄り添ってくれています。
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