逃避行 | 小春にっき

小春にっき

独身パパと愛娘犬コハルとの、お気楽生活日誌。


雨でどこへも行く気にならんので


溜まっていた本を何冊か纏めて読んでみました。


中でも一番読み応えのあったのがコチラ↓


 


篠田節子著の作品はドラマの原題とかでしか知らなくて、


たまたま書店で手に取った本は


普通の主婦が飼い犬を連れて家でするという


ありそうでなさそうな筋書きなのですが


冒頭から一気に読み手を引きつけて離さない


ストーリー展開で、あっという間に読み終えました。


主人公が次々に出会う人間が、


それぞれ違う接し方(エゴ)で彼女らに関わっていく描写が


とてもリアルで、どの場面にもふに落ちる感覚があって


この作者の持つ独特の文章に魅せられてしまい


他の作品をもっと読んでみたいという


気持にもなりました。


巻末に寄せられた、作家 島村洋子 氏の解説文も良かったです。

 

 

 

 

こんな事を書くと、たかが犬のことなのにと


眉をひそめられる方も中にはおられるかと思う。


だが正直、私は人間より犬の方が好きだ。


無人島に連れて行くなら誰?


みたいな問いがよくあるが、


私は人間ではなく大きな犬を連れて行きたい。


犬ほどの資格を持つ立派な人間を


私は見た事がないからである。


しばらく放っておいても


「今までなにしてたの?私と言うものがありながら」


などと恨みがましく言う事もなく、


ただの再開を喜んで尾を振っている


犬は飼い主が自分を捨てたり殺そうとする瞬間にも


その飼い主を信じているのだ。


たまにもうすぐ殺処分される犬たちの檻が


テレビ画面に映る事があるが


あそこにいる彼らはなおも信じているのだ


自分を捨てた人間のことを。


出来事があると、かれらはいつもプラスに考える


自分の信じていた人間が


そんな事をするわけがない、と。


そして裏切られたときもその恨み事を口にすることはなく


なおも信じていたりするのだ


そんな立派な人間を私は見た事がない。


じつに美しい魂を持っていると思う。


なぜ私は犬の様に考える事ができないのだろうか。


~中略~


言葉の通じない生き物と深く理解し愛し合う事が出来る


と言う事を知らずに人は本当に大人になれるのだろうか


短い寿命で死んでいくものをそばに見ずに


優しい人間になる事が可能なのだろうか


多分、生まれながらに立派な資質をもっている人は


そうなのだろう。


しかし動物に教わることはきっと飼った事のない人が


想像もつかないほど、多いのである。


本のタイトルは「逃避行」であるが


主人公は飼い犬と逃げ続けながら


人として生まれてきて本当に大切なものに


徐々に近づいていくのである。


                  ~解説文より1部抜粋