押し入れの隅、16年前の引っ越し以来、一度も開けていない段ボール箱の中で、やっと見つけた。約30年前に製造されたコンパクトカメラ。メーカーのホームページを見ると、機種を通して1700万台を売ったベストセラー機だそうだ。

 写真報道局にあまたいるカメラのプロたちの話を耳にしているうちに、祖父がくれたカメラは骨董(こっとう)的値打ち物かもしれない、とスケベ心がわいた。ただ、調べると大した値打ちはなさそう。職場で披露しても反応はほとんどない。そううまい話はないものだ。

 古いカメラを探していたのには、お宝探し以外にもうひとつ理由があった。近年、加速を続ける技術革新を前に、立ち止まって考えてみたかったのだ。

 報道カメラマンの守備範囲は、技術の進化とともに広がる。カラー化、デジタルカメラの導入、グラフィックの大型化と進み、今や動画である。近い将来にはきっと3Dがやってくるだろう。

 フィルム感度を示すISOは、かつてはISO400がメーンで、特殊なケースにISO1600を使った。今、プロ用デジタルカメラでは10万を超える感度を持つものもある。

 ハードの驚異的な進化はどんな「いい写真」を生み出しうるのか。もちろん、「いい写真」の基準は、人によって違うだろうが、怒濤(どとう)のごとく押し寄せる新テクノロジーを十二分に生かしきっているだろうかというのは、日々突き当たる問いでもある。

 そんな中で、心に共鳴する写真企画があった。手前味噌(みそ)で恐縮だが、月に1度の大阪夕刊のグラフ紙面。陶芸家の福森雅武氏が料理を作る企画では、斯界(しかい)で著名な氏が、陶芸を一切語らず、ハモを骨切りし、カニをゆで、山菜を求めて山に入る。友が集い、味わう。その宴の写真、これがよかった。おそらく氏の自作であろう見事な器。美しく盛られた料理を前に、語らい、酒を酌(く)み交わす、和やかな雰囲気が紙面からあふれ出て、こちらに伝わってきた。

 どういう撮影の秘訣(ひけつ)があるのか。取材カメラマンに聴くと、「先生が飲め、食べろというので、遠慮なくいただきました。写真はその合間に…」

 本能に従って撮ったということだろうか。この話を後進が参考にするかどうかはともかく、ハイテクより大切なものがあることだけは確かなようである。(大阪写真報道局写真部長 大久保博司)

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