「闇夜に君が眩しくて(2)」~それぞれの停電物語~ | 重ねの夢 重ねの世界 ~いつか、どこかのあなたと~

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「闇夜に君が眩しくて(2)」~それぞれの停電物語~



気がついたら部屋は真っ暗だった。

あ、そうか停電だったんだ。

あたしは今、布団の中でガタガタと震えている。

怖いからじゃなくて、熱が出て寒気が止まらないから。

こんな時に風邪をひいてしまうなんて、なんだかひどく情けない。

暖かい毛布にくるまっているはずなのに、何でこんなに寒いんだろう。

まだ明るい時間に熱を計ったら、38度を越していた。

今はさっきよりもずっと具合が悪いから、もしかしたら39度を越しちゃってるかも。

カッコ悪いな、あたし。

こんな時なのに…。


こんな時だからこそ、タフな女でいようと思った。

食べられるときに食べて、眠れるときは眠って、元気で笑顔で、それで人にいっぱい優しくなろうと思った。

こんな時だからこそ、愚痴とか文句なんか言うのはカッコ悪い。

自分のできることを一生懸命にやって、何か人の役に立ちたいと思った。

だけども…出来ることは少なくて、実際、あたし、震災から今まで何したっけ?何ができたっけ?

まだ何もしてないうちにダウンしちゃうなんて、ほんとにカッコ悪い。

なにが「タフな女」だ?!


夕べ友達からきたメールでは、来週の卒業式は中止だって。

一生に一度の卒業式。それも私にとっては最後の卒業式だから、すごくショックだった。

だけど、サークルの仲間もゼミの同級生の中にも、まだ何人か消息がつかめない人もいたりして、卒業式どころじゃないのはわかってる。

こんな時だからしょうがないよね。

被災地の人もそれどころじゃないくらいに辛いんだものね。

そうは思うんだけど、わかってはいるんだけど、卒業式は楽しみだったのに……

それを言ったら、バイト先の上司が

「それは残念だね。卒業式がないのは悲しいよな。日本人はすぐ人と比べるから良くないね。」って。

うん、そうなの。

わかってはいるんだけど、卒業式がなくなったのは、あたしにとってはやっぱり悲しい。


なんだかいろんな事…あの日以来の出来事や、今こうして熱を出してガタガタと震えている自分とか…いろんな事が頭の中でわーんといっぺんに辛くなって涙が出そう。

こんなふうに、暗闇でひとりぼっちでいるのが辛い。


光も音もない部屋で、じっと布団の中にいたら、どこかからギターの音が聞こえてきた。

あの人だ。

窓を開けていたりすると時々聞こえてくるエレキの音、「うるさいな」とか思う時があった。

あれって超絶技巧っていうの? 

ピロピロしちゃって、ギュインギュインしちゃって、たぶん上手いんだろうけど、やっぱ騒音だよねって思ってた。

だけど、今日はアコギなんだ? 

そうだよね、電気が通らないものね。


アコギなんだ…。なんだ、アコギも弾けるんじゃん。

あんなふうに、静かでやさしい音が弾けるんじゃん。

布団の中で、耳をすましてじっと聞いていたら、歌も歌っているみたいだった。

声が聞こえる。

停電の、静かな、静かな夜だから。


よくは聞こえないけど、どんな詞の歌だろう。

「僕がここにいるからね」と、そんなふうに言われている気がした。

きっとこの人もひとりぼっちなんだろう。

そして誰かを想っている。


あたしはそれを子守唄にして眠ろう。

そして、明日にはこの風邪を治して、すっかり良くなったら、やっぱ「タフな女」を目指そうと思った。




3へ続く

※この物語はフィクションです