夏に会ったひと(3) | 重ねの夢 重ねの世界 ~いつか、どこかのあなたと~

重ねの夢 重ねの世界 ~いつか、どこかのあなたと~

あなたの夢とわたしの夢が重なる時…もうひとつの「重ねの世界」の扉が開く

(2からのつつづき)



けれども、何故だろう。

好きな季節の春や秋ではなく、どうしてだか夏が、夏こそが、その去りゆくに惜しいと思う。

「夏の終り」というのは、いったいいつの時を言うのだろうか。

それは「秋の始まり」とはまた別のものなのだ。

まだ秋は始まらず、けれども確実に夏が終ると感じる季節。

そしてきっと、その特別な短い季節は、それぞれの年によって、また、人それぞれによっても違うのかもしれない。


ある朝目覚めて、夜半に蹴飛ばしてしまったタオルケットを手繰り寄せるとき。

新学期に出す絵日記を、急いで描かなければと焦り出したとき。

通学途中で見る青紫の朝顔の花が風に吹かれ、その花びらが妙に薄く感じられたとき。

昼間のうちには焼け付くように熱く光っていたアスファルトが、夕方にはうら寂しい灰色に見えたとき。

夜道を歩きながら、気の早い秋の虫たちの音に気づかされたとき。


私だけじゃない。

きっと、この国に住む多くの人が、自分なりの「夏の終り」を感じているのだろう。

それは、八月の終りや九月の初め。

ある日、ある時、突然に。

あるいは、知らぬうちにしのびよっていたそれに、ゆっくりと振り向かされるように…。

何故かうら寂しく、どこかもの悲しく、今年もまた、この季節の終りが来たのだと知らされる。



(4へつづく)