凶器な爪。
爪を短く切った。
”短く”っつったら、もう深爪直前の域だ。
寝てるときに無意識に胸元の辺りを引っかいて、
そこが炎症を起こしてしまったからだ。
商売女が、自ら商売道具である大好きな身体に傷をつけてしまった。
すげぇ自己嫌悪で、泣きたくなった。
泣きたくなったけど、泣いてる暇なんてなかったから、
もう二度と、引っかいたりしないように、爪を切ってみた。
付く客付く客、胸の傷の事を聞くので、うんざりしているところへ、
常連客のひとりが、
「どうした?客に引っ掛かれたか」
と聞いてきたから、あたしは親切心のつもりで、こっくり頷いてみせた。
「とんでもない客がいるもんだな」
と憤慨して、客はあたしのことを慰めた。
慰められてたら、不甲斐無さと嘘つきなあたし自身になんだかやけに悲しくなって泣けてきた。
あたしの涙を初めて目にした客は、とても満足気にしていたので、
”あぁ、これでこいつはまた、すぐにあたしのところにのこのことやって来るんだろうな”
と、冷静な自分が心の中で薄ら笑いを浮かべていた。
1ミリも白い部分が残っていない爪は、編みタイツにも引っ掛からないし、
サービスの邪魔にもならないし、キーボードを打っててもカチカチ音がしないし、
楽なことこの上ない。
こんなに短くしたのは、ソープ入店後につけ爪をはずした時以来。
ソープは、ローションを溶いたり、何度も湯につかったりするからか、
気が付いたら折れていたり、後ろの穴を攻撃するのに邪魔になったりで、
いくらお金をかけて爪を綺麗にしても、意味がない。というか無駄。
なんだか物足りない感じがするのは、たった数ミリで不細工になった、
女らしさを感じさせない指のせいだろう。