避妊リング。
行きつけの産婦人科に予約電話を入れた。
そういえば、あたしのオシゴト暦を一番深く知っているのは
実はここの院長かもしれない。
「普通はもう沢山子供を産んだ女性なんかがするんだけどね」
と言いながら、彼は避妊リングを差し出した。
付き合いが長くなってるから、
あたしが堅物だと知っているのだと思う。
「ピルという選択肢もあるんだよ」
という言葉も、説得のために使うんじゃなくて
取って付けたように一応の説明はしたという証明のために
使用されている気がする。
数十分の施術で終わるけれど全身麻酔が必要なことも、
定着するのに数週間かかることも、
不妊というリスクがあることも、どれも同じだ。
「自分の体内に入るものは、自分の目で確認したい」
そう言ったら院長は袋に入った小さなリングを見せてくれた。
こんなもので99%以上の確立で妊娠を阻止しちゃうのだ。
別に大きな決断ではなかった。
体内に異物が入ることについても抵抗なんてない。
それどころか、清々しい思いすらして不思議だ。
子供は苦手だけれど、嫌いなわけではない。
いつかその時がくれば、
あたしにも子供が出来るとどこかで確信している。
軟らかく白くまだ何も知らない首元を鷲掴みにして
握りつぶしたい感覚が襲うこともあるけれど、
あたしはそれを現実にはしない。
麻酔から目を覚ます瞬間。あの不快感があたしは好きだ。
大抵麻酔中には夢を見て、それは必ず性的な夢で、
目を覚ました後もそれを引きずっている。
引きずっているのだけれど子宮を熱くしたその夢を
思い出そうとしても少しも思い出せない。
一生懸命物事を考えようとするのに頭はちっとも働かない。
上下左右の感覚もまだつかめずにベッドの上を
ぐるぐる回ったりなんかしてる。
頭を持ち上げると実はそれが石のように重たいことを知って、
ベッドにぼとんと落としたりしている。
看護士は「もう少し横になっててね」とやさしく言いながら、
あたしに布団をかけて押さえつける。
目だけ覚まして頭はまったく覚醒していない、
いかれたあたしが面白い。
どれくらいそうしていたのかも分からないけれど、
頭がすっきりし始めてからあたしは、楽しい不快な時間が
「あぁ、もう終わっちゃった」と落胆する。
終わってしまえばリングが埋まった実感なんてちっともない。
ただ、あの小さな異物によってあたしの子宮にはバリアが
張られた気がして、頑丈な鉄の盾で心が防御できたような気がして、
あたしは晴れ晴れとした顔で産婦人科を後にする。
そういえば、あたしのオシゴト暦を一番深く知っているのは
実はここの院長かもしれない。
「普通はもう沢山子供を産んだ女性なんかがするんだけどね」
と言いながら、彼は避妊リングを差し出した。
付き合いが長くなってるから、
あたしが堅物だと知っているのだと思う。
「ピルという選択肢もあるんだよ」
という言葉も、説得のために使うんじゃなくて
取って付けたように一応の説明はしたという証明のために
使用されている気がする。
数十分の施術で終わるけれど全身麻酔が必要なことも、
定着するのに数週間かかることも、
不妊というリスクがあることも、どれも同じだ。
「自分の体内に入るものは、自分の目で確認したい」
そう言ったら院長は袋に入った小さなリングを見せてくれた。
こんなもので99%以上の確立で妊娠を阻止しちゃうのだ。
別に大きな決断ではなかった。
体内に異物が入ることについても抵抗なんてない。
それどころか、清々しい思いすらして不思議だ。
子供は苦手だけれど、嫌いなわけではない。
いつかその時がくれば、
あたしにも子供が出来るとどこかで確信している。
軟らかく白くまだ何も知らない首元を鷲掴みにして
握りつぶしたい感覚が襲うこともあるけれど、
あたしはそれを現実にはしない。
麻酔から目を覚ます瞬間。あの不快感があたしは好きだ。
大抵麻酔中には夢を見て、それは必ず性的な夢で、
目を覚ました後もそれを引きずっている。
引きずっているのだけれど子宮を熱くしたその夢を
思い出そうとしても少しも思い出せない。
一生懸命物事を考えようとするのに頭はちっとも働かない。
上下左右の感覚もまだつかめずにベッドの上を
ぐるぐる回ったりなんかしてる。
頭を持ち上げると実はそれが石のように重たいことを知って、
ベッドにぼとんと落としたりしている。
看護士は「もう少し横になっててね」とやさしく言いながら、
あたしに布団をかけて押さえつける。
目だけ覚まして頭はまったく覚醒していない、
いかれたあたしが面白い。
どれくらいそうしていたのかも分からないけれど、
頭がすっきりし始めてからあたしは、楽しい不快な時間が
「あぁ、もう終わっちゃった」と落胆する。
終わってしまえばリングが埋まった実感なんてちっともない。
ただ、あの小さな異物によってあたしの子宮にはバリアが
張られた気がして、頑丈な鉄の盾で心が防御できたような気がして、
あたしは晴れ晴れとした顔で産婦人科を後にする。