wばされたように転がった籠があった。
それは、昨日安曇がここまで運んだものだが、そばに寄って中身を確かめると、安曇は苦笑した。
「よかった――。少しはお食べになったんですね」
安堵した安曇に、穴持は低い声で唸るように文句をいった。
「……もう、飯などもってくるな。あると、食いたくなるだろうが」
「食べたくなるなら、元気な証です。本当に食べたくないなら、食べなければいいのです」
「おまえまで、おれの邪魔をするのか――」
顔の上を覆う自分の手のひらを少しずらすと、穴持は忌々しげに舌打ちした。
「――今日は朝から、腹が立つ空だな」http://www.hljwpbl.com
「空? そうですか。綺麗な空です。雲ひとつなく、彼方まで澄んで――」
「いやな空だ。おれは、こんな晴れた空なんか見たくない」
高い場所を吹き抜ける風は少々強いものの、その日は風もほとんどなく、さんさんと光が降り注ぐいい日和だった。
しかし、穴持は青空に向かって、呪いの言葉を吐くようにいった。
「空など、分厚い黒雲に覆われて、大木を一薙ぎにするような稲妻が落ちればよいのだ。大雨が降りしきればよいのだ。雨の水を集めて、川は濁流となり、民たちは、いずれ来る大水に脅えるがよいのだ……! 須勢理が死んだ時から、おれはそう願っているのに――おれは、雲すら呼べんのか――!」
「穴持様――」ドコモアイフォン5発売日
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ははっ。乾いた声で笑い、穴持はみずからを嘲った。
「なにが武王だ、大国主だ――。おれは、すべてを守れると思っていた。おれに従う兵すべて、出雲の民すべて、出雲の国土も、すべてだ。でも――どうして、一番守りたかったものが守れないんだ。どうして、女一人を――。おれはしょせん、なにも守れない男だ」
「……穴持様、もう、それくらいにしましょう」
背負っていた籠をやぐらの隅に置くと、そこで安曇は姿勢よくあぐらをかき、中央で寝転ぶ主を見つめた。
「お知らせしたいことがあります。先ほど、石土王(いしどおう)が雲宮にお着きになりました」
「石土が?」
「はい。――石土王は、あなたを心配しておいでです。杵築の離宮に滞在していた父君ともども雲宮を訪れて、あなたのご様子をお尋ねになり――」
そこで、安曇はふうと息を吐いて肩を落とした。
「実は、須勢理様の舘もご覧になり、驚いていらっしゃいました――。先日、あなたが焼いてしまった舘の残骸を……」
穴持は、鼻で笑った。
「は? おれの心配? 黒こげになった柱を見て、おれが、とうとう狂ったんじゃないかと心配してるというわけか? ――あいつらが心配しているのは、武王の座だろう。おれが須佐乃男に選ばれなければ、石土も候補の一人だったんだから……!」
声を大きくして一息に言い切ると、穴持は、ぴんと張っていた糸が切れたように、ぼんやりとした。
「石土か……。石土は、いい奴だ。あいつなら、武王になれるだろうなあ」
「――むりです、穴持様」
安曇は、すぐさま首を横に振った。
「石土王には野心がありません。石玖王(いしくおう)が、あなたこそが武王としての天賦の才に恵まれた方だと、かねてから諭していらっしゃいますから――」
「だが、石玖は出来不出来にうるさい。おれがこんな風では、あいつは、さっさとおれを見限って、自分の息子こそはといい出すだろう」
穴持はふいっと横を向き、安曇から顔を隠した。
「石土が武王になれば、後ろに石玖がつく。石玖に任せれば、問題はないよ。あいつらは、おれに代わって出雲を率いていく――」
「――穴持様、あなたは、もう……」
「もう、なんだ――。おれは、もう戦えない。牙が抜けた。――須勢理がいないんだ。もう