あえて何もしないことは、エビデンスというしっかりした根拠に基づいて決めているというお話をしました。
もうひとつエビデンスのお話をします。
切迫早産についてです。先の流産の話と違い、妊娠22週以降におなかが張ったり(陣痛)、子宮口が開いたりして分娩になりそうな状態のことをいいます。
一昔前までは今と比べ、早い週数で産まれたり、小さく生まれることは大変リスクの高いことでした。もちろん、今でもリスクが無いわけではないですが、だいぶ改善されています。
切迫早産で早い時期の子宮収縮がある時や早い時期に破水した場合などは、入院安静と子宮収縮抑制剤の点滴を行いますが、昔は今よりもっとたくさんの薬を使っていました。それは、早産したときのリスクが高かったことにもあるのですが、切迫早産のことが良く分っていなかったことにもあります。
最近では、切迫早産は子宮口の炎症や細菌の感染が関連していることが言われています。そのため感染の治療をしたりすることもあります。また、早産しそうな状態に対し、多量の子宮収縮剤を使って長期間分娩にならないように止めることは、収縮抑制剤の母体への影響や赤ちゃんへの感染の問題がある場合があることも言われています。
そのあたりのバランスを考えて切迫早産の点滴をやめる時期を決める必要があるのです。
うちの病院でもむかしは37週になるまで、切迫早産の点滴をやっていましたが、母体への負担や胎児への影響を考えて最近では35週で終了です(もちろん、小児科のバックアップが強いので)。これは、エビデンスに基づいた、勇気ある終了なのです。
これは、エビデンスで治療方針が変わったという話でした。
もうひとつ、別の話。エビデンスが無い時。
子宮口が、あまり自覚症状もないのに開いてしまう頸管無力症について。
本当に子宮口が早い時期に開きかかっちゃった場合は、頸管縫縮術という手術で子宮口をしばっちゃいます。手術ですから、デメリットとして感染、出血、破水、流早産のリスクもあります。
最近では、その開く前の開きそうな徴候がないか、妊娠中期に超音波でこのことをチェックすることが多いです。超音波で子宮頸管の長さを測る頸管長というものです。
しかし、やっかいなことに、短いひとはみんな早産するかというとそうでもないのです。
確かに、長い人に比べればその確率は高くなります。
その一方、頸管長が短いだけの人に手術をしてもしなくても、かせげる妊娠週数は変わらないという報告も多いのです。
頸管長が短いだけの人に手術をした方がいいのかしなくてもよいのかの決定的なエビデンスがないのです。
ある先生は手術を勧めるかもしれませんし、ある先生は安静でいいというかもしれません。しかし、手術をする場合も多いのではないでしょうか。なにかしないで後悔するぐらいなら、なにかやった方がいいと思うからでしょう。
でも、実際それが本当に効いたのか、何もしなくてもよかったのかは結局は分からないのです。副作用で良くない結果になったかもしれないし。
今のところ、患者さん自身の納得いく方法を選択するしかないのです。
エビデンスが無い場合エビデンスをつくる必要があります。大きな病院同士が協力して行うランダマイズスタディと言って、患者さんにこの事情を説明し、納得がいった場合、手術するか、しないかを無作為に決めさせてもらって、その結果を大きい統計として集計して今後の治療方針に活かすというものがあります。日本で今やっています。
なんだか、くどくなってしまいましたが、何かをするとか、なにもしないという結論に至るには、なかなか大変なことが分っていただけましたでしょうか?
もちろん、エビデンスが全てとは思っていませんし、個々の医師の裁量や経験で診断や治療がされることが悪いとは思っていません。
へその緒に関して言えば、エビデンスが他の異常に比べて少ないことや、それらがあまり一般的に浸透していないと思います。だから、心配ごとが尽きないのだと思っています。
へその緒の異常があっても、なんでもかんでも帝王切開すればいいわけではないのです。私は、へその緒の異常であっても、多くを知れば、ケースによっては、自信を持って「普通に下からお産しましょう」と言えることがあると思います
なかなか、頭を搾るテーマでした。 おわり
あしたは、ライトなのにしますね
いつもポチぺたありがとうございます