単一臍帯動脈は何が問題? | へその緒のはなし

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「へその緒」を研究する産婦人科医のブログ。
かつては、みんながお世話になったはずである「へその緒」の神秘的なしくみと、その異常への挑戦を語る。

 単一臍帯動脈には、染色体異常がなくても胎児発育遅延や分娩時に赤ちゃんが苦しくなったりする可能性があるということが教科書的には知られています。

 しかし、全く異常な経過をたどらない赤ちゃんも多くいます。最初、自分も超音波で単一臍帯動脈を見つけたときには染色体異常をはじめとしたそれらの異常の可能性を教科書的にお話していました。

 でも、実際それらの悪しき事象が起きるのはそんなに多くないと感じたのです。かえって、心配だけ増えたケースのほうが多く感じたのです。

 そのため、単一臍帯動脈について、自分の病院での症例を検討し、色々な他の文献情報を集めて調べてみました。



 そもそも病気のことを考える時、どうやってその病気が起こるのか、起こったのかを考えなければなりません。そのことを病理学といいます。

 生まれた単一臍帯動脈のへその緒を薄く輪切りにして顕微鏡で観察するのです。すると、単一臍帯動脈と言われているものの中には2種類あるのです。

 ひとつは、全く1本動脈がないもの。もう一つは、動脈があった形跡はあるものの、中が血液が固まって詰まったり、途中で細くなって行き止まりになってしまうものです。

 全く1本の動脈がなかったものは、もともとへその緒が作られるときから作られなかったのかもしれないし、妊娠の早い時期に詰まってしまって、その後の成長でその動脈の痕跡すら無くなってしまったものと考えられます。

 一方の、詰まったあとがあったタイプのものは、妊娠中に何らかの血液が固まりやすくなった状態が起きたか、へその緒自体に何か急な細くなるトラブルが起きたと考えられます。

 単一臍帯動脈と言っても、できかたやその時期によって、赤ちゃんに対する影響が違うのではないかと考えて検討をしました。


 結果です。

 染色体異常や他の奇形があった頻度

  全く1本の動脈が無かったタイプ 5/12例
  1本が詰まっていたタイプ    0/7例

 このことは、妊娠の早い時期(生まれつき)1本の動脈が作られなかったということは、もともとの異常(染色体異常)や赤ちゃんの他の場所の発生異常(奇形)がある可能性が高いことを示しています。



 赤ちゃんの具合が悪くなってした緊急帝王切開の頻度

  全く1本の動脈が無かったタイプ 0/12例
  1本が詰まっていたタイプ    4/7例

 1本が詰まっていたタイプは、妊娠中に1本の血管がつまる何かトラブルがおきた可能性があります。もう1本にも起こるかもしれません。やはり、何か詰まりやすい不利な環境があると考えられ、緊急帝王切開の頻度が高かったと言えます。



 最後に、胎児発育遅延の頻度

 両方のタイプでともに43%でした。

 へその緒が細かったりした場合に、赤ちゃんへの栄養のパイプの働きが悪くなるため、赤ちゃんの発育が悪くなることがあります。その頻度は、いずれのタイプでも違いがありませんでした。


 これらのことが分ったのですが、残念ながら超音波1回でそれがどっちのタイプかを知ることはできません。

 だけど、たとえば20週のときには1回ちゃんと2本の動脈があったことが確認されているのに、その後1本になったというのであれば、後者のタイプが考えられます。

 そこまで、見る必要があるのかと言われればそれまでだが、多くの情報があれば、妊娠中に単一臍帯動脈と言われて苦悩するお母さんたちにより正確なことを伝えられると思うのであります。

 今後、妊娠中に2タイプを分別する方法を考えてみたいと思いますキラキラ



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