彼について | Drawing Man

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気ままに書いた小説をあげています。

俺の相方~彼について~





「高村零です。よろしく」


昨日からだけど、俺の相方は、教卓の前で静かにそう告げた。
零の姿を見た瞬間から、女は騒いで、男はやや幻滅したようだ。

なぜって、

転校生が『男』だったから。

ま、俺としては男でよかったけど。女だったら同室にはなれねーし。


「ね、かっこよくない?」
「ちょっと小さいけどね」
「あはは確かに」


そんなクラスメートの声が聞こえてきた。


小さい・・・。
確かに、零は小さい、と思う。
俺の身長は男としては普通で186cmなんだけど、
頭ひとつ分くらい、零とは身長が違う。


―――女って、ホント良く見てるよなぁ。


と、ちょっと感心する。




そしてその日のホームルームが終わった後、
みんなが帰り支度をしているときだった。


「聞いてーーー!!!高村君指輪してる!」

「げ、彼女いるの?!」


当の本人はというと、担任に書類の不備があるとかでよばれて、すでに教室をでていた。

ここぞとばかりにみんな騒ぎ出す。


―――すげー騒がれよう。


と思って、他人事のように眺めていたら、


「ちょ、鷹森!あんた同室だったよね。どうなの??」


と、女子が一斉に俺を見て、否、にらみつけてきた。
ぶっちゃけ怖い。

「え?いや、知らねぇし・・・」


てか、まだ同室になって一日目なんですけど!


「何よ使えないわねー。」



つ、使えない?!

お前らのそのごちゃごちゃしたピアスを棚に上げて言われたくねーぞ!


・・・っていうか、




「使えないって、俺はモノじゃねぇーーー!!」




と大声を上げれば、俺の男友達が味方してくれるだろうと思ってたら、


「おお鷹森がキレた!!」と何やらうれしそうである。


裏切り者め!!







「指輪?」

「あぁ、クラスの女子が騒いでたぞー」

「そう」


特に何の興味も示してないようだった。

慣れてるのか?
と、思いつつ、大量に出された数学のベクセルの問題を解く。
考えれば考えるほど、こんがらがっていく矢印たち・・・

「あ~!もうなんなんだよ!わけわかんねー数学!!
 お前も俺をおちょくてんのか!!」

「うん?」

「あ、いや・・・何でもない」

「鷹森。俺でよければわからないとこ教えるよ。帰ったら、ね」

「は?帰ってきたらって―――」


と、部屋の仕切りともなっているカーテンを少しだけ開けて隣を除くと、
零の姿はそこにはなかった。

ドアから出て行った様子もない。というか、だったら音でわかるし。

と言うことは、残るは部屋の窓のみ。


「え、ここ3階・・・だよな。」


確かに、俺たちの部屋の窓のすぐ下には、たまたま下の階の屋根があるけど、
その下は二階分の建物の高さが待っている。
降りるのは何とかできたとして、


―――戻ってこれるのか・・・?

というより、そうまでしてどこに・・・。



はっ!
まさかバイト?!
勤労学生か?!



一生懸命働く零の姿が頭に浮かんだ。


―――頑張っている零に、帰ってからもベクセルなんて


そんな厄介なもの考えさせちゃダメだ!



俺は苦手なベクセルと格闘すると決めた。武器は教科書(?)。
参考書は余計ややこしくするから使わない。


ほんとにわからなければ、宇佐美兄に聞きにいけばいいしな。



宇佐美兄とは、そのとおり、俺の嫌いな宇佐美の兄貴だ。
彼は俺たちの一つ上だけど、今は同じ学年だ。
何か、前に留学してて、そのせいで一年留年したらしい。詳しくは知らないけど。
めちゃくちゃ頭が良くて、テストでは「不動の一位」を更新している。
彼なら、こんなベクトルなんて簡単なものだろう。



「よっしゃ、負けるかぁぁぁ!」



俺の中で、今日のイライラも、その元凶である零の指輪もどうでもよくなっていた。




3時間後に零は(やはり窓から)帰ってきた。

「ただいま」

バイトがきつかったのだろうか、若干疲れた表情が見て取れた。

「お、お疲れ!数学、全部解けたから!休んでくれ!」

「そう」

ふう、と息をつきながら、零はベットに座った。


その姿から、本当に疲れていることがわかる。


―――やべ、俺、零の相方として、なんか気遣いの言葉を・・・



うーん、うーんと




「零、無理はするなよ」


「うん?」


「俺、俺応援してるから!!」


精一杯の俺の、気遣い。

言われた相方は、少しだけ首を傾けながら、





「・・・何を??」




とつぶやいた。



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