「あらかじめ言っておくが、来週の日曜はちょっと丸一日外出するかもしれないからな」
「前にいってたコスプレに挑戦するってことかしら。それは楽しみよね。大丈夫よ」
「そうだ。本当は一緒に連れていってやりたいが、先方は男限定とのことらしいからな」
「ついにスクリーンデビューか。じゃ、当分はご飯抜きね。見栄えをよくする必要があるから」

知っているくせに冗談にならないことをいう。たんなる時代劇のエキストラ体験をするだけだ。
定期的に数十人単位で募集され、昼飯の弁当がギャラ代わり。ハマっている友人に誘われた。

「現地にいくまで、何の役をさせられるかわからんそうだ。体格や顔で判断されるんだろうな」
「行商人や旅人役ってなってるわ。あなたは大きいから、怪しげな行商人が似合うかもね」
「怪しげは余計だ。俺は壮絶に斬られて死ぬ野武士役をやりたいよ。ケチャップ持参でな」
「たしかに斬りがいのある体よね。というか、すぐに死にそうにないもの。それこそNGだわ」

蒲田行進曲じゃないが、どうせ出るなら目立ってみたい。誰が主役かわからないくらいに。

「五分以上のたうち回ってやるぞ。断末魔をここぞとばかり演じてやるから、期待しておけ」
「なんの映画かわからなくなるじゃない。そんな役はエキストラからは選ばれないから」
「わからんぞ。ダイヤモンドの原石を俺に発見する映画監督がいても、まったくおかしくない」
「ワンコそばを旅人が食べるシーンなら、最適ね。グルメ番組からのスカウトがあるかも」

メインの出演者より目立つことはタブーだ。ともすれば体格で役がもらえないかもしれない。

「そうなるとムダな一日になってしまうからなあ。まあ映ったとしても、ほんの一瞬だけど」
「貴重な体験ができるならいいじゃない。でも役を演じるのなら、私にもお願いしたいなあ」

リクエストは桃太郎の爺さん役。婆さん役の彼女は、こう言われたいそうだ。めでたしめでたし。