「うーん、食べすぎて腹がいたいぞ。明日が休みだからよかったが、平日だったら欠勤するところだ」
「調子にのってバカみたいに食べるからよ。三時間あるんだから、もっとゆっくりしたらいいじゃない」
「そうはいうが、満腹中枢が働かないうちにどれだけ食べられるかなんだよ。食べ放題店の攻略は」
「何にたいして戦っているのかしらないけど、それにしても他の人も食べたよね。で、よく喋ったわ」

10月末に予定のキャンプの打ち合わせをかねた食事会だったが、話題はそれだけじゃおさまらない。

「あいかわらずスケベな話題に火がつくのが早かったな。もう恒例というか、ところかまわずというか」
「私も一応レディーなんだけど、もうあきらめちゃってるわ。なんか誰も止める気がないものね」
「まあ、酒の席だからな。とはいうが、シラフでも同じテンションだからなあ。男として尊敬するよ」
「あそこまであっけらかんとされると、いやらしさも吹きとぶよね。だからといって慣れる気はないけど」

いわゆるベッドタイムの体験談で話がすすんでいったが、どこまで本音で語っているのかわからない。

「話半分で聞いたほうがいいと思うよ。あくまでその場かぎりさ。雰囲気を互いに盛りあげたいからな」
「でも、ちょっと面白い話もあったわ。男と女の友情は存在するかってね。二人きりだったら、とか」
「やっぱり二人で食事をするってのはさ、なにかの期待があるはずなんだよ。男女関係なくさ」
「そうかしらね。でも誤解を与えたくないなら、わざわざ二人きりにはならないわね。マナー違反だわ」

一度わかれたあとに近況報告として会う場合は、ある種の友情かもしれないと誰かが主張していた。

「それはどうだろうな。たんに報告だけだったら、顔を合わせる必要はないよ。ましてや別れたんだし」
「あえて見返すつもりで会うかもよ。いまの彼は、あなたよりずっと素敵なのよと自慢するためにね」
「でも俺は同意しかねるなあ。そもそも新しい恋人がいるのなら、なおさら前カレに会ってほしくないよ」

すこし間をあけてから、彼女がなにかをいいたそうに顔をむける。いやな告白がなければいいのだが。

「なにを想像しているかしらないけど、私もやっぱりイヤかなあ。でも気にしないよ、信用しているから」

バカだなあ、俺は目の前のご馳走を全力で味わうといったじゃないか。だから幸せ太りしているのさ。