「そういえば、こないだインスタントラーメン会社の会長が亡くなったんだよな」
「私もニュースでみたわ。平均寿命をこえて長生きされていたのね。大往生じゃない」
「昔から、ああいったインスタント物ばかりたべると寿命を縮めるといわれたじゃないか」
「そうよね。もちろん会長だからといって、毎日毎回たべてたわけじゃないだろうけど」

定番の味をつくりあげるには、想像以上の創意工夫と試行錯誤を繰り返したに違いない。
その過程で、おそらく何千杯と食べたであろう先駆者が大往生をとげたことは栄誉に等しい。

「スープさえ飲まなきゃ、塩分もそれほど摂らないからね。カロリーも高くないはずだわ」
「俺は一杯じゃ足らんから、味噌汁代わりにつかってたけどな。あくまでご飯がメインだ」
「炭水化物ばかりで舌が飽きないのかしら。そういえばウドンとかお好み焼きもすきよね」
「あれほど男の食欲をみたす組みあわせはない。心の底から、満腹感を味わえるからな」

さすがにチャーハンをオカズすることはできないが、小麦粉モノはパン以外は基本的に可能だ。

「中国だったかな、餃子はメインでオカズじゃないって。たしかに小籠包はそれだけで充分だわ」
「包む皮の厚みというか、パサパサ感にも左右されるよな。すくなくとも肉マンとご飯はあわない」
「私はラーメンにも、そう思っちゃうんだけど。必ずというほどライスを注文するよね、しかも大盛りを」
「ああ。いったろう、男のロマンなんだよラーメンライスは。一心不乱に胃を満たす。それで充分だ」

ところが実家は貧乏だったので、代替品としてのインスタントラーメンへ夢中になったのである。

「味の土台が袋麺だからさ、いざラーメン屋で食べても違和感しかなかったんだよ。哀しいかな」
「まったく別物と感じたのね。たしかにインスタント物は、それだけで独自の世界ができてるわね」
「だからといって、本物の味にケチをつけるようなマネはしない。お互いを認め合うことが基本だ」
「でもねえ。そこまで好きなら、なんかへんな想像をしちゃうわ。インスタントな愛情も、ってね」

君は代替品じゃないし、たった三分間などゴメンだ。食事と愛情は、時間をかけて楽しみたいのさ。