部屋に引きこもることの多かった、あの頃。何もかもが信じられず、ただ布団で丸くなっていた。
いまから思えば大人の対応ができたはずだが、意地をはって無理を押しとおしたことへの後悔。

「あれはたしか、ハタチくらいだったかなあ。ただじっと部屋でうずくまってるだけなんだよ」
「初めてあなたからそんな話きいたときは、まるで信じられなかったわ。正直、いまでもね」
「ありがとう、って言っていいのかな。まあ、あのときはつらかった。何も考える気力がなかった」
「病院には行ってないんだっけ。気持ちはわかるけど、やっぱり保険料を払ってるんだからさ」

意外と現実的だ。その当時は親の健康保険でまかなっていたが、その時こそ使うべきだった。

「とにかく、何もできないんだよ。やる気が一向におこらない。メールなんて、もってのほかだ」
「友だちはどうしてたの。一応、連絡をとりあっていたんでしょ。心配になるわよね、さすがに」
「ちょうど夏休みに入ったころだったから、顔を合わせずにすんだんだよ。悪い意味でね」

夏季休暇のほとんどを自宅で費やしていた。連絡をくれた友人にもまるで返さなかった。
自然と受信メールはへっていき、休みの終わる10日前には一通もなかった。当然のことだ。

「このままどうにでもなれと思ったんだよな。外出先はコンビニで、カップ麺を買うのみだった」
「でも結局、休み明けには通学したんでしょ。そこまでひどい状態から、どうやって立ち直ったの」

正確には後期の二日目からだ。その前日に一通のメールがあった。定年前の教授からだった。

「俺の噂を風の便りにきいたらしい。結構、親しかったからな。で、後期初日にくれたんだよ」
「いったい、なんて書いてあったの」
「死ぬなら勝手にしろ。でも俺に迷惑をかけるのは許さない。その前に目の前で一言断れ、とね」

この身勝手と思える内容に憤り、文句をいうために授業へでた。もちろん本心は分かっていた。
今日は教授の命日。まだ残る彼のメアドへメールを送った。彼女がいるからまだ断れません、と。