「フランス一周ねえ、いいなあ。いつか旅したいけど、夢の話なのかなあ」
「やってみたいのなら、すぐに行動しろよ。俺のことなんか気にせずにな」
「いいのかしら。帰国したときは、とあるムッシュのお嫁さんになってるかもしれないわよ」
「ああ。そのときは、ひざまずきながら出迎えてやるよ。おかえりなさいマダム、とな」

言葉でいうのは簡単だが、実際にやりとげるのはとても難しい。国際結婚はその代表だ。
言語や慣習の違いはもちろんのこと、親戚づきあいや食生活などじつに多岐にわたる。

「なれてしまえば、どうってことないけどな。口ゲンカが減るだろうから、仲は円満かも」
「言葉を介さなくっても、ケンカの方法はいくらでもあるわ。あなたなら食事抜きとか」
「それは単なるイジメだろうが。暴力に訴えるよりかはマシだが、しないにこすことはない」
「手を出したら問答無用で別れるから。それは私も守っているけど、一線は確実に引かないとね」

そんなことは承知のうえだ。基本的に男は女にくらべて、体力の面で絶対的にまさる。
そこへいかないまでの努力を欠いた時点で二人の関係を終わらすべきだし、そう願いたい。

「でも、世の中はそんなに単純じゃないからね。つい手が出ちゃうのよ。本能なのかな」
「俺は一回もやられたことはないけど、そんなことあったっけ。忘れてるだけかな」
「私じゃないのよ。古い友だちがね、なんか共依存の根底が暴力になっちゃってるっていうか」
「それは最悪だ。愛情の一部として暴力があるのなら、いますぐ離さなきゃ。誰も助けないのか」

その女性の友人はみんな遠慮して、誰も手出ししていないらしい。火中の栗をひろうからだ。

「よし、いっちょ肌を脱ぐか。必然性のある暴力なら、遠慮することもないからな。血わき肉踊るぞ」
「興味本位だったら、やめてよね。彼女に迷惑だろうし、何よりもあなたがケガするのは見たくない」

冗談だといいたいが、何とかしたい。まずはレディファーストの態度をその旦那に見せつけてやるか。
さっそく、ひざまずいて彼女の手にキス。場所が違うわ、と艶っぽい唇を突きだす。了解、マダム。