「そういや週末に例の食事会があるから、すまんな。一緒に連れて行きたかったんだが」
「それって、拾ったお金をネコババしたやつね。うらやましいわ、元手がタダなんだから」
「人聞きの悪いことをいうなよ、知ってるくせに。ようやく期限がすぎたので晴れて使える
んだ

落し物が拾い主のものになる期間が、半年から三ヶ月にかわったのを全くしらなかった。
数日前に状況を警察へ確認すると権利はすでに発生しており、それを失う期限の寸前だった。

「たしか説明をうけたはずだけど、すっかり思い違いをしていたよ。あと三日で泡になっていた」
「あぶく銭は身につかずっていうけど、あなたたちはしっかりと肉体の糧にするのね。いいなあ」
「そうだ。これはその場にいた者しか権利
あずかれない。さぞかし悔しがるがいい」
「ほんと、うらやましいわ。一人あたり五千円くらいになるんだっけ。で、どこにいくの」

あれは週末の深夜だったか。友人との酒席帰りにふと道端をみると
、数枚のお札が散乱していた。
なぜ誰も気づかなかったのかと思うほど、大胆にちらばる諭吉と漱石。ありがたいことだ。

「きっと、地上に舞いおりた神様が酔っぱらって散財した証拠だよ。後始末係ってわけさ」
「全知全能のはずなのにずいぶん世間ずれしてるのね、その神様は。まあ、いいいけど」
「とにかく俺たちは幸運に感謝して、普段は行く機会のない高級料理店で舌鼓をうつ予定だ」
「そうそう、どこに決めたのよ。私なら、ちょっとしたフレンチのコースを選ぶけどなあ」

男同士で小洒落た店は似合わない。ましてやナイフとフォークの使い方がわからぬ連中だ。

「いま候補にあがっているのはスッポン鍋に高級寿司、高めのビアガーデンってとこだ」
「この時期にスッポンっていうのもねえ、興味はひかれるけど。食べたことないから」
「やっぱり寿司になるかなあ。ビアガーデンはいつでも行けるしなあ」

久しぶりに回っていない寿司屋で、思いのまま食べつくしてみたい。ヒラマサやカンパチなどを。

「でもなあ、そういう店ってなんか落ちつかないんだよな。俺はセルフサービスが好きなんだよ」
「あら、私は高級品ではないってことかしら。これでも、がんばっているんだけどなあ」

捨てられ
いた彼女を拾ったのは、生涯最大の幸運だ。その価値は無限大なのだから。