「なんかさあ、ふと思ったわけよ。こえられない一線が、確実にあるんだなってさ」
「何についていってるのか知らないけど、不倫はよくないわ。お互いに不幸なだけだから」
「意味のない心配をしてくれてありがとさん。冗談はともかく、それはこえてはいけない一線だ」
「努力と自制の違いってことかしら。どっちも愛情にたとえると、哀しい結末しかないけどね」

昼飯によったラーメン店で、わずか5分で大盛りを平らげる猛者の話だとはいえなくなった。

「懸命な努力までして保つ必要のある愛って、いったい何なんだろうな。子育てになるかも」
「この子が成人するまでは別れないってことね。でもそんなのは絶対に気づくよね、子供が」
「いわゆる偽りの愛情ってやつか。そういや一時、仮面夫婦なんて言葉もはやったよなあ」
「それを聞いたのって子供のころだから、本当に仮面を年中かぶっていると思ってたわ」

たまにはルーチンな日常への刺激策で一日中、そのいでたちで過ごすのも面白そうだ。
もっともプロレス好きな者にとっては、仮面より覆面だ。夜の空中殺法など愉快きわまりない。

「覆面夫婦って、すごくメキシカンな響きでカッコいいな。隣近所の噂になりたいもんだ」
「プロレスのことはよくわかんないけど、髪の毛をしまうのが大変だから覆面は遠慮するわ」
「よし、わかった。覆面男に仮面女でいこう。そのときは、おたがいにリングネームを名乗るんだ」
「完全な自己満足よね、まったく。でもよく聞くよね、仮面をかぶると違う性格になれるって」

剣道やアメフトなどは、その好例だ。顔を見せないことで、相手にかまわず思いきったプレーができる。

「じゃ、今夜ためしてみてもいいよ・・・って私、なにをいってるのかしら。恥ずかしい」
「OK、ベッドでおとなしく待ってな。今夜はフライングボディアタックで、ずっとフォールしてやる!」

この一線は、努力か自制のどちらだろうか。ともあれ仮面をかぶることで、仮面を脱いでみようぜ。