「親子のきずなか。なかなか難しいものであり、そして意外と簡単なものだよな」
「いきなりどうしたのよ。どうせ、昨日みた映画に影響されたんでしょ。」
「そうだ。どっぷりとハマっちゃったよ。考えさせられるよなあ、俺は親に何をしてきたんだって」

資格も技術もない主人公役の父親が、違法移民となりながらも懸命に息子を育てる話だった。

「なんかさ。どうにもツイてないだよ、その父親は。でも子を思う心は偉大なんだよなあ」
「そういうものよね。私はまだその立場になってないけど、きっと甘えさせちゃうんだろうな」
「どうだかな。君はかなりしっかりものだから、なにげにきびしくしつけると思うぞ」
「どうなんだろうね。こればかりは実際になってみないと、わからないものだから」

そういう話はまだ二人で真剣にしたことがないし、その前提条件となる儀式もすんでない。
ただ、ときおり親子連れをみると自分の姿を想像してしまう。DNAがそう命令させるのだろうか。

「とにかく、その主人公が一所懸命でさ。何やってもダメだし、息子からも見放されてるんだけど」
「親子の関係って、一方的な恋に似ているよね。そうでない親子もいるだろうけど」
「どの関係が適切かなんて、答えはないよ。しつけと勘違いされた虐待は勘弁してほしいが」
「で、最後はどうなったの、その映画。なんかハッピーエンドじゃなさそうだけど」

現実的なシナリオにもとづくラストは、強制送還させられる父を見送る息子の姿だった。
ベタベタしない男同士の最後の会話に泣かされる。成長を見守ることこそ、最高の幸せだと。

「母と娘の号泣シーンもいいけど、俺はやっぱり男だからなあ。言葉を伝える重みに感動したよ」
「あなたもそんなことを考えるようになったのね。でも、女の子でも同じように愛してほしいわ」

母子家庭で育ったこともあり、父親になることへの恐れもあったが何とかなるだろう。
その前に、すますべきことをやらねば。それは彼女の行末を見守ることへの約束だ。