「アレルギー問題が、かなりなところまできているな。おちおちメシも食えやしない」
「あなたにはまったく関係ないじゃない。他人が食べないものも口にするんだから」
「それはどういう意味だ。そうか、前にお土産でもらったイナゴの佃煮を全部たべた恨みか」
「だれもそんなもの食べないわよ。すくなくとも私はね。虫はダメだわ」

世界では昆虫をタンパク源とする民族が、想像以上にたくさんいる。
アジアを旅行すれば、そんな風景も当たり前だ。セミやバッタ、サソリなど。

「前に写真でみせてもらったけど、嬉々としてサソリの串刺しをたべてたよね」
「あれはうまかった。エビの油揚げに似ている。ビールのツマミにもってこいだ」
「まあ、形は似てないこともないけど。まさか生でたべたわけじゃないよね」
「さすがにそこまでの勇気はない。毒は抜いているそうだが、わかったもんじゃないからなあ」

いわゆる毒キノコマニアは、ピリッとくる食感がたまらないと自慢気にかたる。
フグもほんのり毒をふくませると味わいぶかくなるらしいが、どこまで真実だろうか。

「なにしろ、食らった挑戦者たちのほとんどがあの世行きだからな。確かめようがない」
「サソリはどうだったの。やっぱりしびれる感覚はあったのかしら」
「ああ、ほんのすこしな。舌先にピリっときたあと、目の前が七色の虹におおわれたよ」
「ウソばっかり。もし本当なら自宅で飼っちゃうでしょ、食用に。あなたならやりかねないわ」

そこまで食に貪欲ではないし、飼育したものを食べる勇気はナイーブな性格がゆるさない。

「毒を食らわば皿までというが、むだな食い意地ははってない。死ぬと食えなくなるからな」
「じゃ、毒っ気のある女性はどうかしら。危険とわかっていても、付きあう勇気はあるの」

今夜のカレーがやけに辛いのは、気のせいだろうか。わかりやすい演出だ。
お互いの舌が麻痺しては、しびれるキスもままならない
。君は毒より薬だからさ。