「いやあ、かわいい笑顔だったよな。やっぱり子供は、なによりも正義だ」
「ほんと、そうよね。最初に話をきいたときは耳をうたがったけど、これで安心だわ」

血のつながっていない子供へどれだけ愛情をそそげるかに、疑問を感じていた。
それをこともなげにやってのける友人には、あらためて尊敬の念を感じる。

「いろいろ話をきいたら、実際は相当悩んでいたらしいけどな」
「男の人はとくにそうだろうね。でも、妊娠期間中から面倒みていたそうだから」
「いつのまにか我が子のように感じたんだろうな。その間も大変だったみたいだし」
「なにしろ切迫早産だからねえ。精神的にもかなり苦しかったはずだわ」

なんらかの異常が子宮に発生して羊水が激減し、ついには完全喪失したそうだ。
結果、三十週前の出産。体重は一キロ強しかなかったらしい。完全な未熟児だ。

「あいつがそんなにタフな体験をしてきたとは、まったく分からなかったよ」
「ふだんから趣味のことしか喋らない人だったからね。つかみどころがないというか」
「いままで浮いた話もほとんどなかったんだよ。それが、これなんだからなあ」
「いろいろと複雑な過程があったんだろうけど、子供の前では関係ないわ」
「ああ、これからがすべての始まりなんだろう。笑顔の前では誰も批判できないよ」

不倫劇の末にみすてられた妊婦をすくいあげた友人。見事としかいいようがない。

「ヤツもいってたよ、俺ほど奇特な男はいないだろうってね」
「彼もまだ若いから、二人目をつくるのも時間の問題だからいいんじゃない」
「そこに疑問というか、ちょっとした感情は決断に入らなかったのかなあ」
「血の問題ってことかしら。でもね、愛情は血縁を簡単にこえられるのよ」

そういいながら、軽くキスしてきた。そしてグッと抱きしめてきた。

「私とあなたの血はつながってない。でも、こうできるのは愛情があるからよ。簡単じゃない」

赤の他人を愛おしく変える魔法は、どこから来るのだろう。神の降臨かもしれない。
とりあえず、このキスは誰にも譲らない。そしてその笑顔に、俺は魔法をかけられっぱなしだ。