「突然の知らせだったよな。あいつが結婚していたとは」
「しかも子供までいたとはね。人って、見かけではわからないものね」
「自分の子供ならともかく、嫁のを引きとってるんだからなあ。とにかくびっくりだ」
「なんか、のれんに腕押しのような性格だったけど、じつは芯が強かったんだね」

恋愛のことなど、まるで関係ないとばかりに人生を謳歌していた共通の友人。
昨夜、メールで知らせがあり籍を入れたとの報告が。しかも連れ子つきだ。

「たしかに最近なにか様子がおかしいというか、旅行をピタリとやめたんだよな」
「あんなに好きだったのにね。そろそろ50カ国目とかいってなかったっけ」
「縛られる人生などまっぴらとかいってたが、何をそこまであいつを変えたんだろう」
「恋愛なんてそんなものよ。というより、彼のなかで究極の旅がいまから始まるんだろね」

人生を変えるきっかけは、まさに人それぞれである。とりとめのないものもあるだろう。

「覚えてるかしら。私たちが付きあうようになったのは、あなたの鉛筆を拾ったからよ」
「あれは二十歳くらいのころだったかな。たしか、いっしょのゼミをとってたんだよな」
「いまでも覚えているわ、三回連続で落とすんだもの。さすがに最後はイラッときたわ」

それが作戦だったとは、口がさけてもいえない。男はときに、入念な作戦を要するのだ。

「まあ、私も仕返ししたからいいんだけど。消しゴムを三回連続ね」
「そういや、やったよなあ。俺も三回目はイラッときたけど」
「何いってんの、嬉しそうに拾ってたくせに。あんな雑な作戦で引っかかった私に感謝しなさい」

といいながら、ペンを落とす彼女。お返しに、今度は婚姻届を落としてやるか。