チューリップが満開の公園で散歩する。平日なので人はまばら。
目の前に広がるお花畑のような景観には誰もが心をうばわれ、そして癒される。

「来てよかったな。今日みたいにおだやかで人がすくない日もめずらしい」
「本当ね。これだけのチューリップを独り占めに近い状態で見られるんだもんね」
「やっぱり入場料をとってるせいかなあ。そんなに高くないんだけど」
「映画代や遊園地代にくらべれば、うんと安いもんね。しかも何時間もいられるんだもの」

仕事ではデスクワークがメインなので、休憩時くらいしか外にでない。
その時間も社員食堂とかで済ますので、体への日照時間は出勤時くらいだ。
人間もしょせんは動物。自然の中で生きていることを忘れては、体のリズムも狂ってしまう。

「やっぱり、なんか気分がなごむよな。たんに芝生の上で座っているだけなのにな」
「今日は特別に天気がいいからね。これが土砂降りだったら外出どころじゃないけど」
「たまには雨にうたれるのもいいもんだぜ。後処理が大変だけどな」
「どうしても服や洗濯のこととか考えちゃうからなあ。大人になるって、こういうことね」

実際の自然は、つねに厳しいはずだ。おだやかな気候は、ほんの一瞬にすぎない。
その象徴が花だとしたら、ながめるだけで気分が晴れやかになるのは理にかなう。

「ある種の希望かもしれないなあ。どんな草木でも、とりあえず毎年咲かせるからな」
「どっかの唄みたいね。どうなんだろ、人間以外の動物もおなじように感じるのかしら」
「シビアにいうと色覚に左右されるだろうな。犬は色盲で、猫は限られた色度しかないらしい」
「虹が虹に見えないってことね。その意味では人間に生まれてよかったわ」

それぞれの花は、花粉を媒介する特定の虫へアピールする色をだすという。
思えば人間も、子孫繁栄につながるフェロモンをだす者を色男や色女とよぶ。

「はたして俺は、いまでも色をだせているのかなあ。つまりは他者との区別だ」
「ダーウィンだと自然選択説だっけ。自分で気にしてもしょうがないのは、歴史が証明しているのよ」

芝生で軽く一杯やったせいか、頬を赤らめる彼女。その色のつき方が俺を選択させたのさ。