「そういやさ。この前、部屋を整理してたらテレホンカードがでてきたんだよ」
「なつかしいわね。公衆電話も見かけなくなったから、使う先はあるのかしら」
「一応、電話代を払えるみたいなんだけど、口座から引き落としてるからなあ」
「ちょっと前までは、プレミア付きのカードで騒がれたものだけどね」

希少性があれば、どんなものにもプレミアはつく。切手や古銭は、その代表格だ。
そこにどのような価値を見いだすかは、個人差としかいいようがない。
自身をふりかえれば、ビンテージの釣り道具を追いもとめる時分もあった。

「道具はわかるんだけどさ、テレホンカードは写真を焼き付けただけだよね」
「まあ、そういうことになるな。作り手側の意図で、いかようにも価値をつけられる」
「というか、自分でオリジナルのをつくっちゃったらいいんじゃないの」
「それじゃダメなんだよ。あくまでオフィシャルであることが価値を生みだす前提なんだ」

そう言った自分でさえ、おかしな話だと思えてきた。
まるで興味のない者からすれば、電話をかけるためだけのカードである。
実用的な部分に付加価値をどのように与えるか、それが商売の基本なのだろう。

「私は絵柄なんてどうでもよくて、とにかく枚数がほしかったわ」
「やっぱり女同士で電話へ夢中になるからか」
「女友達には家でかけられるのよ。問題は・・・わかってるでしょ」

携帯電話の普及が、恋愛の気軽さを向上させたのかもしれない。
すくなくとも電話時において、親の視線を気にする必要はなくなった。

「あのころは、なにかあったら外で電話してたなあ。バイト代のかなりを占めたわよ」
「そこまで惚れられた奴に、ちょっと嫉妬しちゃうなあ」
「バカね。ウブだったから電話するのよ。怖いから、とも言えるわね」

長電話が愛情キープの秘訣かと思ったら、そうではないらしい。
声でわざわざ確かめる必要がなくなったとき、女は安心して身を預けるそうだ。

「でもね、たまに確かめたいときがあるわ。そのときは昔に戻らせてもらうわよ」

そう言いながら、出てきたテレホンカードを手にとった。
その付加価値は、今では愛情が生みだすのかもしれない。俺も取っておくか。