「すっかり春めいてきたけど、まだ朝晩はひえこむなあ」
「この時期って、着ていく服を迷うのよね。厚着すべきかどうか」
「俺の場合は、コートを手に持つだけで調整はできるけどな」
「男は楽でいいわね。女はトータルのバランスを考えなくちゃいけないから」

そんなに気をつかう必要はないと思うが、そうもいかないらしい。
とくに春先は明るめの色で着飾るのが暗黙の了解になっており、
そこに暗色のコートを付けくわえるのは許されないということだ。

「すくなくとも男はそこまで見てないよ。無理しなくていい」
「でもね、やっぱり春は明るくいきたいのよ。ファッションは女の源泉よ」
「たしかに男目線からは、女性はいつでも華やかでいてほしいけどね」
「女同士になったら、そのへんのチェックはきびしいの。それはもう、戦いよ」

オスのクジャクが、自らの羽をこれでもかと見せびらかすようなものか。
そういえば、およそ動物界においてメスが派手な種類は人間以外にない。

「女王蜂とかをのぞけば、基本的にオスのほうがオシャレというか派手だよな」
「それだけメスに気に入られたいってことよ」
「じゃあ、なんで人間だけ違うんだろう。ホストやジャニーズとかは別だけど」
「こう言いかえたほうがいいんじゃない。人間が進化したのは、女がオシャレに目覚めたからって」

なるほど、一方通行の自己主張より互いに影響しあったほうが、その効果は飛躍的にのびる。
そして生活環境の向上から、どの女性からも確実に子孫が残せるようになったことで、
男性は己の美醜にこだわらなくなり、逆に女性が自らの価値を高める方向へ進んだのだろう。

「そういうわけで女は男を浮気させないように、美を保たなきゃいけないのよ」

だからね、と週末のデパートを付きあうことに。初夏用の服をどれだけ買わされるやら。