「二年か」
「もう二年よね」
「早いもんだな」
「そうね。ふりかえると昨日のことのように思えるわ」

「あのとき、お前は何してた」
「仕事で電話してたんだけど、最初は二日酔いなのかしらと思ったわ」
「俺はバイクに乗ってたから、まったく気づかなかったんだよ」
「ここは震源から遠いからね。でも、とても長くて大きな揺れだったことは覚えてる」

「で、会社にもどったら、みんな騒いでて。テレビを見たら、あのザマだ」
「なんかもう、切なくなるばかりだったよね」
「なにもできない自分にイラついちゃってさ。やり場のない怒りがこみあげてきて」
「私は、ただ呆然としていたわ。まるで現実味のない映像に、入りこめない自分がいた」
「人間って無力だなあと思わされた瞬間だったよ」
「地震だけだったらね、よかったんだけど。あんなのって、とてもじゃないけど予測できない」

「10倍の死者がでたスマトラ島のことも、言いたかないけど対岸の火事だったんだなあ」
「それはもう、しかたないわ。私たちだって、実際にどれだけのことができたか分からない」
「なにせ、一生に一度あうかどうかのことだからなあ。とにかく祈りをささげるばかりだよ」
「うん。いまも苦しんでいる人のことも合わせてね。情けないけど、それしかできないわ」

「もし、こんなことがまた起こったら、俺のことは気にしなくていいからな」
「それはどういうことよ」
「自分自身のことを最優先にしろってこと。まずは、生きろ」
「そんなのわかっているわよ。でも、私はあなたを見捨てない」
「ときには見捨てなきゃいけないときもあるんだよ。俺は見捨てないけど」
「なにをいいたいのか分からないわ。女は男を見捨ててもいいってことかしら」
「ああ。女は子供をつくれる。だが男は子供をつくれないからな」
「・・・バカ」

すこし涙目で、彼女がささやいた。

「女はね、自分の子供を最優先に守るの。わかったかな」

そういって頭をなでてきた。年上のはずなのに子供扱いする彼女へ、今夜は体をあずけよう。