小雨がふってきた。天気予報では晴天のままだったが、見事にはずれたようだ。
傘をもってなかったのでコンビニで買おうとしたが、結局そのままにしておいた。

「だから、みょうにスーツがぬれていたのね。500.円くらいだっけ、コンビニの傘って」
「うん。気軽に買うには、ちょっと迷うんだよなあ。牛丼が二人前食べられるし」
「そんな発想はなかったわ。せいぜい缶ジュース五本くらいかしら」

食料品に換算すると、とたんに贅沢品が買えなくなる。
たかが500円なれど、一時の不快さを回避するには高すぎる。途上国ではなおさらだ。
雨にぬれることで、自然のなかでの暮らしを疑似体験できると思えばいい。

「たんに、ケチと思われたくないだけじゃないの」
「まったく違うよ。根本的に間違っている。俺はつねに自然体でありたいんだ」
「じゃあ、今日から素っ裸で生活したらどうかしら。私は付きあえないけど」
「たまにはアダムとイブになるのも良いもんだぞ。原罪をしらないピュアな心にもどるのさ」

適当なことをいいつつ、実際に子供のころは雨中での遊びが大好きだった。
ちょっとした非日常が好奇心をあおるのだろう。泥んこ遊びなぞ、大人は決してできない。

「服を汚すことが、ある種のステータスでもあったよな。遊びの場では」
「お母さんの苦労が想像できるけどね。その後の洗濯のことを考えると」
「いまから思うと、さぞかし大変だったろうな。俺もよく怒られたもんだよ」
「私は雨のなかで遊んだ記憶がないわ。部活も文化系だったからなあ」

でもね、と一言つけくわえた。

「雨はね、小さいころから憧れていたのよ。やっぱり女の子だったから」
「なにを」
「傘といえば、決まってるじゃない。持っていても忘れたフリしたりね」

そういえば、ひさしく肩を寄せて歩いていない。そこでの500円は決して高くないか。