「おい、どうした。なんか熱っぽい顔をしているぞ」
「ちょっと風邪をひいたみたい。でも大丈夫」
「まず熱を計ってみな。ほら、体温計」
「ありがと。本当はあなたの体で計ってほしかったけど」

冗談をいえるくらいなら大丈夫だろうが、どうも息づかいが弱々しい。
運よく休日だったことで面倒をみられるが、家事全般は任せっきりだった。
とりあえず掃除と洗濯をしながら、おかゆくらいを作る必要がある。

「おい、調味料ってどこにしまってたっけな」
「台所の上の二番目の棚よ」
「で、なにをいれるんだっけ」
「私は白がゆで充分だけど、あなたもほしいなら塩とコショウで味付けして」
「その前に米はどこにあるんだ」
「もう。ちょっと、どいて。私がやるから」

結局、彼女を台所にたたせてしまった。なんとも情けない。
ときおり咳きこみながら、昨夜の残り物で器用に調理している。
体温計は微熱をしめしていたが、油断は禁物だ。ベッドに再度、寝かせる。

「ごめん。これを機に炊事を真剣に学ばなくちゃなあ」
「その思いはありがたいけど、あなたは不器用だし味オンチだから」
「たしかに器用ではないけど、味に対してはうるさいぞ」
「そう、調理済みのものにはね。でも、それは調味料で味つけられたのよ」

どういうことかと考えながら、できあがった中華風おかゆをいただく。うまい。

「それがあなた用。そして私はこれ。さっきも言ったけど素材だけで充分なの」

シンプルな白がゆを口に運ぶ彼女。すこし分けてもらう。なるほど。
ごちそうさまと言いながら、紅がぬられていない唇もいただいた。うまかった。