「カーニバルか!いいなあ、行ってみたいなあ。行きたいよう」

英語の勉強ついでに見ているCNNから、リオの現在が映しだされていた。
街中の人がおのおのに着飾り、若い女の子はほぼ裸のコスチュームで踊っている。
男なら一度は体験したい祭だが、大和撫子が求められるニッポン女子はいかがなものか。

「そんなの関係ないよ、楽しけりゃいいじゃん。たしかにこの衣裳は抵抗があるけど」
「そうだろう。やっぱりこのプリっとしたお尻のあがりかたは、外人ならではだもんな」
「イヤラしいわね、といいたいけどオンナ目線からも、このケツはたまらんわ」

ときおりオッサン化する彼女。ダイエットに目覚めては三日で記憶をうしない、
体脂肪をへらす目的ではじめたウォーキングも、靴はピカピカなままだ。
食事ごとのカロリー計算は今でも夢中だが、l晩酌がてらのワインでいつも帳消しになる。

「でもさ、ブラジル女って結婚したとたんデブになるんだよ。よかったね」
「なにがいいんだよ」
「いや、私みたいな典型的な日本人体型の女の子と付き合えてってね」
「自分で女の子って言うな」
「いやいやいや、君。女はいつまでも女の子でいたいんだよ」
「でも男は、男の子でいたいなんて思ってないぜ」
「それはね、たんに素直になれないからさ。ほれ」

すかさず無理やり顔を膝にのせられ、頭をなでられた。屈辱だ。

「俺は猫じゃないんだけどなあ」
「おお、よしよし。今日は寒いから鍋でもしようかねえ」
「あ、俺スキヤキがいい。無性に食べたくなってきた」
「うん、いいねえ。しばらく食べてなかったよね。でも、なんで急に?」

頭を猫撫されながら、数年前に亡くなった母のことを思い出していた。
甘えっ子だった記憶が、スキヤキの味に置きかわっていたのかも。思わず苦笑い。

「なんか嬉しそうだね。ようし、今夜は奮発するぞ、イエイ!」

すぐさま飛びあがり、リオのダンサーのように腰を小刻みにふる彼女。
調子にのって転ぶなよって見ていたら、サンバのリズムにのせてネギをふり回してきた。

「オレ、オレ、スキ、スキ、ネギ、ネギ、ヤキ、ヤキ、(パンパン)オーレ!」

あ、転んだ。母さん、もう嫁にしちゃっていいかな。