ハムストリング損傷と再損傷 | 熱血リュウコーチのよしなし日記

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ストレングスコーチをしている勝原竜太の日々の出来事や、仕事の感想など

そろそろと書いていこうと思います。

2012年11月号の

NSCA (National Strength and Conditioning Association)ジャパンの

ストレングス&コンディショニング・ジャーナル11号に掲載された

ハムストリング損傷についてのレビューを紹介したいと思います。

「Hamstring strains: Basic science and clinical research applications for preventing the recurrent injury」

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ハムストリング(ス)とは、

太ももの裏にある大きな筋肉3つを総称していいます。

それぞれ筋の名称は、

大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋です。



ハムストリング損傷はアスリートにとっては

一般的な傷害のひとつです。

しかし、一般の生活をされている方では馴染みが薄いかもしれません。


それは、

ハムストリング損傷は、

高速運動が必要な競技や

股関節の最大伸展を行うようなスポーツに

(ラインダンスなどのように太ももの裏をストレッチする競技)

頻発することが知られています。


また様々なスポーツで、他の傷害発生率と比較しても、

とても高い割合で存在します。

一年間に起こる傷害(ケガ)の雑な表現ですが、

概ね10-30%程度がハムストリングの損傷というデータもあります。


そしてハムストリング損傷について、

アスレティックトレーナーやストレングスコーチたちが常に気にかけているのが

再損傷です。

1年以内の再損傷の確率は

概ね30%以上という研究データが多いです。


私も、

大学生の頃、

ハムストリングの肉離れにより、

再三受傷を繰り返し、

非常につらい思いをしました。


今回紹介している論文(総説)では、

ハムストリング損傷における

これまでの研究者たちの見つけた成果を紹介しながら、

どうやってハムストリング損傷を予防し、

どうやってハムストリングの再損傷を予防していこうかということを提案していました。


トレーニング指導の専門家をはじめ、コメディカルの方には

日本語で訳されたNSCAジャパンの機関紙を読んでいただきたいです。

またスポーツ医・科学の研究者や上記臨床家でも高い意欲のある方には、

原典を参照していただきたいと思います。


今回のレビューに紹介してある各論文(引用文献)を読み込むことで、

ハムストリング損傷の概要をつかめると思います。

そして、ここに載っていない多くの研究成果と比べることで

更にその実態を掴むことができると思います。


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ハムストリング損傷のリスク因子として

現在までにさまざまなパラメーターから検討されてきました。

現在、その中でも関係性があるのではないかと検討されている有力なものがいくつかあります。

ほとんどのパラメーターが相反するような研究データもあり、

未だ結論づいていません。


①ハムストリング損傷歴

②競技系アスリートとして高齢であること

③大腿四頭筋(太もも前の大きな筋肉群)の柔軟性低下

④大腿部の筋のアンバランス


まず③の大腿四頭筋の柔軟性低下のエビデンス(証拠)となったのは、

トーマステスト変法により大腿四頭筋の柔軟性の低下が独立リスク因子であることを示したものがあります。

しかし、大腿四頭筋の他のテスト項目と関係性が見出されていないことから、

大腿四頭筋の柔軟性低下がリスク因子だ!!と強い根拠とするには至っていません。


次に④の大腿部の筋力バランスについてです。

大腿部の筋力バランスがハムストリング損傷のリスク因子となりうるとした論文があります。

しかし、再損傷した人の31%が正常のバランスをしていたことにも注目すべきであるといわれています。

よって本文中では、大腿部の筋力バランスだけで独立したリスク因子とは考えづらいと述べられています。


私も、大学、大学院と大腿部の筋力測定をたくさん行いました。

また、同僚、先輩の測定もみてきました。

筋力のアンバランスがリスク因子と述べるには、

やはり根拠が足りないといった感じです。

(細かい話はここでは置いておきます)


②競技系アスリートとして高齢であることがリスク因子になりうるとした論文がいくつかあるようです。

これはなぜか??私もこのレビューの中ではつかむことができませんでした。

根拠とされた論文を読む必要がありますが、

リスク因子としてパラメーターを抽出する研究手法から考えて、

アスリートして高齢であることがリスク因子なのか、

アスリートをしている期間が長くて受傷経験があるのか、

因果関係は掴めていないはずです。

競技系スポーツにおいて

トータル練習時間が長いということは、

ケガの発生率が同じであっても

ケガの総回数は多い可能性があるということにもなります。


そして最後に残った①ハムストリング損傷歴が最も独立リスク因子となりうるとしたものです。


これは他のケガに比べて、ハムストリングの再損傷の多さからも納得するものです。

初回の受傷に比べても、再受傷の確率は高いです。


ハムストリングを損傷した人は、

常に予防プログラムに目を向けるべきであり、

特にハムストリング損傷後1年以内の予防プログラムへの取り組みは

必ず行いたいと思います。


この論文中にあるハムストリング損傷のメカニズムについて書かれているものは、

もう少ししっかりと精査する必要性を感じています。

気になる方は本文を参照してください。



ハムストリング損傷の解剖生理として、

多くのハムストリング損傷は、筋原線維が腱と重なる近位の筋腱接合部に沿って発生すると紹介されています。

これに関して、私の友人の研究者も遺体を利用した研究において、

近位部の筋腱接合部でおこるとしていました。

損傷直後は急性炎症反応が起こり、

その後、筋とコラーゲンの再生が起こります。

このような損傷では、線維性瘢痕(はんこん)の形成がもたらせることが多いです。

いわゆるしこりと呼ばれているようなものです。

ヒトにおける画像研究として紹介されているものでは、

6週間で無細胞瘢痕が存在するといったエビデンスがあります。

動物モデルによって、瘢痕組織は永久に存在するといったものもあります。


この瘢痕の存在が、

その後のハムストリング損傷にどのような影響を与えているかについても

研究は進められているようです。



さて、

ここからハムストリング損傷をした人は

どんなリハビリをするべきか、

また損傷を予防するためにどのようなことをするべきかといったことについても

書かれていました。


ここでは、

伸長性トレーニングの実施が予防に役立つであろうことや

腰椎-骨盤筋群の制御トレーニング、

漸増的アジリティトレーニングと体幹スタビリティートレーニングが有効とされています。

ハム・スプリント プログラムも予防トレーニングとして示されています。

目的は、ランニングテクニックの改善、コーディネーション、ハムストリングの機能向上です。

これらを一連のプログラムとして実施することで

予防に役立てるというものです。


私が特に意識して実施してほしいと思う点も、

ここで指示されているような

固有受容器を高め、神経筋制御のメカニズムを刺激するようなトレーニングです。


具体的には、

ユニラテラルエクササイズ、テイクオフエクササイズ、ランディングエクササイズ、

それに加えて下肢関節をコントロールするエクササイズです。

このプログレッション(段階的アプローチ)として、

バランストレーニングのようなものが入ってきます。


今回紹介した論文の中には、

いくつもの「なぜ?」も存在しています。

なので、ぜひ根拠として提示されている論文も一緒に参照していただきたいと思います。

すると更に「なぜ」が出てきて、

更に調べていくことになります。

そう、これが我々スポーツ医科学を専門に扱う人の性ですね(笑)

有益な情報かどうかを見極めるためには、

その情報以外にも多くの外観を掴んでいなければいけません。

結果として目新しくもない、昔ながらにやられていることをチョイスすることもあります。

それを専門家として取り入れる根拠が慣例だけであってはいけません。

慣例として残存するエクササイズにもとても有益なものもあります。

しかし、そうでないものもたくさんあります。


そこで我々が一言添えてあげるだけで、

これまで以上に集中した良いトレーニングを積み重ねることにつながるでしょう。


新発見の目から鱗も私達の魅力だと思います。

しかし、知識の外観を掴み、知識の運用の仕方を伝えることも

とても大きな役割です。

そしてとても大きなトレーニング成果につながることをつけ加えておきたいと思います。



さあ、精進精進。

いつの日か、この知的財産が世の中でたくさん役に立ち、

社会的に認めていただけることがくると、

多くのスポーツ振興に貢献できると信じています。


がんばろっと!