白龍のブログ 小説とかを描き続ける機械

白龍のブログ 小説とかを描き続ける機械

基本的に描いた小説を載せるブログです。
読みに来てくだされば嬉しいです(^ー^)

テクニカルシティの地下は薄暗く、湿気臭い。
人間達はこの場に自ら近寄ろうとはせず、いるのは地下清掃の作業員ばかり。
勿論ワンダーズもここには行きたくない。

だが依頼が来ては仕方ない。カビが所狭しと生え揃うこの異臭の場に、ラオンとドクロが現れた。


ここは工業地帯の下に存在する、地下通路の一つ。
あちこちに、鼠が通ったものであろう小さな穴が空いている。特にこれといって怪しい物はないが、その割に道幅が広く、ポッカリと開いたような空間が、静かに、そして不気味に広がっていた。
今回頼まれたのは、ここに潜んでいる地下蜘蛛を倒す事。
地下蜘蛛達は無数に群がり、この地下通路の人々の作業の妨害をしているらしい。テクニカルシティの経済事情に支障をきたす前に、ここから追い出してほしい、との事だった。

「蜘蛛退治なんぞ業者に頼めよな。相手にならねえ」
ラオンは蜘蛛達に出会う前から既に面倒な顔をしている。ドクロも最近張り合いを感じていないのか、不服そうな顔をしていた。
こんな陰気臭い場所に来てまで蜘蛛退治とは…二人が苛つくのも仕方ない事だ。
だが二人は思い知る事になる。これが自分達にピッタリな案件である事を…。

しばらく進んでいくと、一つの扉が見えてきた。
鉄製のその扉は、見るからに重そうな重量感がある。ずっしりと佇む扉に手をつけながら、ドクロが言う。
「この先に蜘蛛が多く出没するらしいわ」
「まあナイフで脅せば何とかなるだろ。余裕だ」
蜘蛛など日頃見慣れている。ドクロは特に躊躇いもなく扉を開き、ラオンも余裕そのものの表情。




…そんな二人を待ち構えていたのは。


人間ほどもある蜘蛛の群れだった。

「っ!?」
一体の複眼と、視線があう。


何十体もの大蜘蛛が、こちらを向く。



大急ぎで扉を閉め、逃げ出すドクロとラオン。大蜘蛛達は扉を難なく突き飛ばし、突撃してくる。


先程まで広く感じた通路が一気に狭く感じる程の大群。蜘蛛の不快な足音が辺り一帯に立ち込める。
二人は天井のパイプにしがみつき、蜘蛛の突進を回避する。蜘蛛達は追跡に夢中になっていた為か、そのまま通り過ぎていった。

まだ遠くの方から足音が聞こえるが、何とかやり過ごせたようだ。
あんな怪物がいるとは聞いていない。依頼主に文句の一つでもつけたいところだが、同時に自分達に頼んできたのも納得した。あれでは業者もお手上げだろう。
あの大きさ、あの数。下手に相手をするのは危険だ。
ならば、やつらの発生源を探るしかない。根っこに挑むのだ。

恐る恐る先程の扉を開くと…蜘蛛は残っていなかった。
床を見ると、そこには大きな穴が空いている。やつらはここから現れたのだろうか。
虫が現れたであろう穴だ。不本意だが、行くしかない…。
「ラオン…お先にどう…」
「おらっ!行け!」
ラオンはドクロを突き飛ばす!見事に穴に落ちるドクロ。
「きゃー!!」

穴はそこまで深くはなく、すぐに床に落ちる。
怒りの声をあげようとするが…体に染み付いた異様に粘ついた感覚に、心が冷える。

「うわ…」
そこは、無数の糸で埋め尽くされた回廊だった。
言うまでもない。蜘蛛が巣を作っているのだ。
鳥肌のあまり、ドクロはその場から動けなくなる…。

「へへーっ、悪かったな」
笑顔を見せながら、ラオンが後に続いて降りてくる。
「うわ…これは酷いな」
ラオンも顔をしかめたが、ドクロほどの反応ではない。
足を震わせ、その場から動けないドクロを見て、ラオンはウインクする。
「こんなもん、私らの敵じゃねえだろ」
彼女はポケットからナイフを取り出し…振り回しながら直進!

無数の糸が瞬時に引き裂かれ、通路は元の姿を取り戻した。
無数のパイプが顔を出し、薄暗い通路…先程と変わらぬ光景だ。
「ほら、行くぞ」
ドクロを引っ張るラオン。早い所最奥を目指そうと進むが…。


どこに潜んでいたのか、二人の前に二体の大蜘蛛が降りてきた!
牙を震わせ、複眼がこちらを睨んでくる。土足で巣に侵入してきた不届き者を前に、二体は興奮している。
ドクロは両手を黒く光らせながら、ラオンに言う。
「ここは任せて。ラオンは先に!」
「なんでお前糸は駄目なのに蜘蛛本体は平気なんだよ…」
言われるがままに駆け抜けていくラオン。
大蜘蛛は噛みつこうとしてくるが、ドクロの手から放たれた光弾が先手をとった。
吹っ飛ぶ蜘蛛達を横目に、ラオンは長い通路をひたすら走る。
途中、あちこちに糸が張り巡らされ、道を塞いでいた。それらも問題なく切り進めていく。
よく聞くと、後ろからドクロの靴の音が聞こえてくる。彼女も追いついているのだろう。

「おっと、また扉か」
ラオンはある扉の前で足を止める。やはり糸に塞がれているが、問題なくナイフで切り裂く。

「片付いたわ。やつら、ようやくどこかへ退散してくれた」
ドクロも横に並んでくる。一先ず今は敵はいないだろう。
が、この扉を開けた先にはまた新たに敵が現れる…ラオンは、そんな予感がしていた。
「ドクロちゃん、気をつけろ」
「ラオンこそ」
息のあった合図だった。
僅かに残った糸を振り払いつつ、鋼鉄の扉を開く。


扉の先には…。



非常に広い空間の真ん中に、今まで以上に巨大な蜘蛛が佇んでいた。

「出たーーー!!!!」

息を合わせて抱き合う二人。
その蜘蛛…ボス蜘蛛は、かぎ爪のついた前足を振り下ろしてくる!
コンクリートの破片が散るなか、二人は飛行して回避。
咄嗟にパイプの上に乗ったのだが、ドクロは西側、ラオンは東側のパイプに着地した。
反対方向に飛び乗ったお互いの姿を確認し合う。
ボス蜘蛛は、今度は二人同時に突き刺そうと、両足を振り下ろしてくる!
パイプを直進して駆け抜ける事でかわしていく二人。ボス蜘蛛はその場から動かないまま、前足を動かすだけで二人を追尾し続ける。余裕を感じさせるその様子が、二人を苛つかせた。
「畜生、テメェ刺し蜘蛛にしてやる!」
ナイフに紫電を纏わせ、刃の威力を高めていくラオン。そして、ボス蜘蛛の隙を見て頭部に飛び込む!
だが流石は蜘蛛。口から糸が吐き出される!
何とか回避するが、飛行のバランスを崩して落下するラオン。ドクロは彼女を助け出そうと下に飛び降りるが、蜘蛛の前足が二人を襲う。
「くっ…面倒な相手ね」
ドクロは左手に魔力を込め、蜘蛛の足を受け止める。巨大かつ頑丈な前足が、ドクロの細い腕に受け止められる。
魔力を使っている技なので消耗は大きい。何度も使えない技だ。
この自由が効きづらい場所でこの巨体を相手するのは骨が折れる。何とかこいつを外に放り出せないか…。
「…ドクロちゃん、私に任せろ」
ラオンが呟く。何か策があるようだ。
「良い方法、あるの?」
「ああ。見てろ…」
ラオンは立ち上がり、ボス蜘蛛を見上げる。ボス蜘蛛は前足を振り上げ、二人に狙いを定めていた。
その狙いから逃れるように、ラオンは真上に向かって飛行。ボス蜘蛛の禍々しい赤い複眼が、それを追う。

「おらっ!」
天井付近に辿り着くと、彼女は天井にナイフを突き刺す。
そのままナイフに紫電を纏わせ、一回転。天井は勢いよく抉り取られ、円上の穴が出来上がっていく。
天井に大穴が開き、地上の太陽光が差し込んでくる。その光を見た瞬間、ボス蜘蛛は明らかに動きが鈍くなる。
久方ぶりに見た日の光に目を覆うドクロ。ラオンは着地まで完壁にこなし、ボス蜘蛛を見上げる。
「出入りは簡単なこの地下通路。にも関わらず、こいつらが地上に出てきたという報告は一切なかった。つまり、こいつらは地上の光が苦手な可能性があった訳だ!!当たったようだなぁぁー!!!」
戦闘を有利に進められるのも、弱点を突くのも気持ちいい。仲間が近くにいるなら尚更だ。
ラオンがポーズを決める中、ボス蜘蛛は凄い速度で地上に這い出し、街に出て、身にかかる日光から逃れるべく、森の方角へと向かっていく。
しばらくして、他の蜘蛛達もそれに続いていく…。ボス蜘蛛の逃走を察知したのだ。
これでようやく解決のようだった。



しかし、問題はその後に起きた。


地下通路に空けたあの大穴。あれを管理者が見逃すはずがなかった。

その後、二人は大目玉を食らうのだった…。








あるバーガーショップにやってきたれな、れみ、粉砕男。
そこはテクニカルシティでも随一の味である事で有名な、高級店だ。
粉砕男が日雇いのバイトで得た報酬金で、れなとれみにハンバーガーを奢ってくれるらしい。
受付ではしゃぎ回る二人。特にれなは妹以上の勢いだ。
「アタシ、シシャモバーガー食いたい!シシャモバァァァァァァァガァァァァァァァァァ!!!」
周りの客に迷惑だ…。れみはれなの頭を殴りつけ、彼女を黙らせた。

れなとれみが「シシャモバーガー」、粉砕男は「プロテインを染み込ませた肉増し増しバーガー」。
それぞれの好みのハンバーガーをテーブルに置き、両手を合わせる。

「んんんー美味しいぜ!!」
れなが実に嬉しそうな声をあげる。れみもまた、食べるのに夢中だ。
ポテトや肉の香ばしい匂いに満ちたバーガーショップ。大人も子供も楽しめるこの憩いの場で、粉砕男は穏やかに笑う。
「ゆっくり食うんだぞ。あ、そうだ…」
粉砕男が何かを思い出したように、姿勢を整える。れなとれみは口をモゴモゴと動かしながら、粉砕男と目を合わせる。
「この店には隠されたレシピがあるっていう噂があるんだ。知ってるか?」

なんでもこの店にあるハンバーガーは、特定の具材を特定の順番で重ねて作ると、究極の味が完成するのだという。だがその究極の味を見つけ出した人は未だに現れていないのだとか。
「へー、そうなんだーどんな味なんだろー」
…れなとれみは、あまり興味がなさそうだった。

この姉妹は、目の前にある物が美味しければそれでいいのだ。


…しかし、三人は気づいていなかった。窓の外から、こちらを見つめる二つの影を。

赤髪の少女悪魔と、紫色の髪の少女悪魔…デサイアとキュバスがニヤリと笑いながら、三人を話を聞いていた。
窓は閉まっているが、悪魔である二人は人間以上の聴力を持っている。今の話も完全に聞かせてもらった。
デサイアはキュバスに肘を突きつけながら、卑しい笑み。
「聞いた?アタシ達でその隠されたレシピ探してみようよ!」
キュバスも静かに頷く。
特定の具材、特定の順番。それが何なのかは分からないが、だからこそ探索が楽しいというものだ。
早速二人は行動を開始した。



「ここから入ろう…」
二人は飛行し、店の裏側の窓の前を飛んでいた。
ここは比較的人目がない。
しかしどうやって侵入するのか…?静かに侵入する方法はなさそうに見えた。

「おりゃあ!!」
…デサイアは、窓を殴って叩き割る。これくらいしか思いつかなかったのだ。


幸いにも、店員達は作業に夢中でそれに気づく事はなかった。
デサイアもデサイア。店員も店員である。

早速、窓から店内に侵入、そこにある箱という箱を次々に漁っていく。
トマト、肉、レタス…一般的な食材から、トウモロコシ、みょうが、ピザにチョコレート。…その数は、数え切れない程にバリエーション豊富だ。この中から適切な順番、適切な数を導き出すのは…凄まじく骨が折れる作業だ。
「…」
沈黙する二人。だが…二人の欲望は抑えられない。
一度始めたら最後までやり通す。おかしなところで真っ直ぐな二人なのだ。

とりあえず、何も確証がない以上、適当にでも組み合わせるしかない。
何となく手に取ったのはトマト、魚、レタス。
「あえて肉が入ってないのかもしれないし」
デサイアがウインクする。
それらを箱に入っていたパンで挟み、一口、食べてみる。

「うっ!!」

デサイアの顔色が変わる。


「多分、これかも…しれない…」
なんと、一発で当ててしまった。しかし、明らかに美味しそうではない。
青ざめた顔のまま硬直し…白目を剥いて倒れてしまった。
困惑するキュバス。そんな彼女の背後から、ドアが開く音が聞こえてきた。

振り返ると、そこには店員が立っていた。何やら得意げな顔の店員に、キュバスは怒鳴りつけた。
「おい!!これはどういう事!!?」
まるで被害者のように振る舞うキュバス。店員は手を伸ばし、部屋のあちこちを指差す。
「気づかなかったのか?部屋の各所にセンサー機能のある糸が垂れ下がってるんだ。それのおかげで気づいたのさ」
目を凝らすと…確かに、白い小さな糸が天井からぶら下がっている。
この細さでセンサー機能がついているとは…テクニカルシティの科学を見誤っていた。
そして今倒れているデサイア…彼女についても説明してくれた。
「どうやら秘密の味を引いてしまったようだな!この店のハンバーガーは特定のトマト、魚、レタスを同時に食べると、気を失う程の不味さになる事があるのだ!!」
「えっ、本当にこれが秘密の味なの!?」
勘違いしていた。
隠された秘密の味…聞こえこそ夢があり、天国のような味を期待してしまうが、実際には美味しいとは言っていない。
噂は本当なのか…キュバスは一口、齧ってみる。


「…これは確かに…ま、ず、い…」
その不味さは、並大抵のものではない。舌から脳へと電流を流されたような衝撃が、あるいは泥を無理やり飲まされたような、あらゆる不快感が襲いかかる。
デサイアの上にのしかかるような形で、キュバスも気絶した。


店員は、怪しげな笑みを崩さなかった。
「さて、次は誰がこれを引き当てるか…」




…店内では、シシャモバーガーを完食したれなが、メニューを見ながら次のハンバーガーを無邪気に選んでいた。
粉砕男の奢りなのだ。もっと食べなければ勿体ない。
「うーん、たまには変わったハンバーガーが食べたいな」
ふと、メニューの中で目についたのは、「具材自由」と書かれたページ。
不思議な目で見ていると、粉砕男が教えてくれる。
「それを頼めば、具材を自由に決めて注文できるんだぜぇ。頼んでみたらどうだ?」
「へー、面白いね。じゃあ少し変わったラインナップを頼もうかなーー」 
少し考えた後…れなは決める。


「トマトとレタスと魚ってのが良い!さあ、頼もう!!」 ユニークな組み合わせに、れみと粉砕男は穏やかに笑うのだった。








テクニカルシティは昼も夜も忙しい街だ。そこらかしこで人々が様々な用事で動き回り、目まぐるしく人混みの色合いが変わる。
そんな街でも、月が天高く登る深夜はひっそりと静まり返っている。夜は家にこもる時間。人々の本能に、そう刻み込まれているのだ。
そんな深夜の闇の中に、月明かりを受けて輝く何かが置かれていた。

ゴミ捨て場に寄り添うように置かれた異様に綺麗な物。それは鏡だ。
暗黒に閉ざされた天空を映し出す鏡。その異様な輝きの通り、これは普通の鏡ではない。
…鏡は突如、激しく震えだし…人知れず、一際強い光を放出した。

その光から…ある巨影が現れた。




「れな!大変よ!」
翌日…。

何事もなかったかのように陽の光が呑気に地上を照らし出す朝方の時間。事務所にドクロが駆け込んでくる。
れなはソファーに座り、慌てたドクロとは全く対照的な様を見せている。
「何ね、ドクロちゃん」
れなははじめこそ呑気ではあったが…。


…外に出て、いかに不思議な事態が起きているのかを理解すると、その余裕はすっかり消え去った。
まずおかしいのは周囲の光だ。そこら中の建物という建物から光が射出されており、まるで無数のライトのよう。
何より…街の人々の姿だ。
一見特に変わらないように見えるが…よく見ると、服のプリントが不自然な見た目になっている。通常の模様を左右反転させたような…ファッションの一つだとしても、街の人々全員が着用するのは、あまりに不自然な格好だ。
呆然としてるれなに、一人の見知らぬ青年が話しかけてくる。
「いかきんげ、あや?」
「え?」
…こんな訳の分からない事を言われては、肝の座ったれなも上手く反応できない。



街がおかしくなっているのだ。ドクロが朝起きたらこうなっていたのだという。
幸い他のワンダーズメンバーは無事のようだが、明らかな異常事態に皆は混乱している。

実害こそないが、道を歩いていると周りの人々のおかしな会話が耳に入ってくる。このままではこちらの精神が持たない。
「一旦隠れよか…」
ドクロがれなを連れて、適当な路地裏に入る。
薄暗く、ゴミの臭いが所狭しと立ち込める路地裏。嫌な場所だが、ここなら人は少ない。
とりあえずここで、これからどうすべきか相談しようとする…。
「あれ、ドクロちゃん見て!」
ある物を見つけたれなが指を指す。その先には、鏡が落ちていた。
鏡を手に取るれな。その異様に磨かれた鏡には、れなのとぼけた顔が映ってる。
「うーんやはり私は美しい。これ以上の美しさはない。世界を破壊してしまうレベル」
「そんな事言ってる場合?てゆうか、何でこんな綺麗な鏡がこんな場所に」
ドクロが話してる最中に、鏡が突然光りだす!
驚いて鏡を手放すれな。地面に落ちた鏡からは光が少しずつ分離し、形を変えていき…。


…鎧を纏う騎士の姿が現れた!
その騎士は、鎧で光を反射して光り輝いている。鏡で鎧を形成したような、特徴的な姿だった。
今の鏡は罠だったのか…?突然の状況にも狼狽えず、二人は構える。

その騎士は、剣を抜き取る。そして、こう言い放つ。
「るせみてめさおにうゅちゅしのいかせみがかられわ、いかせのこ!」


「日本語話してくれ!!!!」
れなが叫ぶと同時に、騎士は剣を振り下ろす!
かわす二人。
相手は明らかに敵。迎撃の準備だ。
ドクロが両手から黒い光弾を発射して騎士に当てる。

…が、光弾は鎧にぶつかると同時に、跳ね返ってきた!
自分の光弾にぶつかり、倒れるドクロ。
「あ、あいつ…鏡なのは見た目だけじゃないわ!」
騎士は剣を振りかぶって接近してくる。急いで立ち上がり、咄嗟に飛行するドクロ。
飛行しながら、下にいるれなに注意を呼びかける。
「気を付けて。あいつに光線攻撃を仕掛けると危ないわ」
「分かった!オメガキャノン!!!!」
…青い破壊光線を放つれな。全く話を聞いていない。
騎士はその激しい光線も跳ね返し、れなは爆発に巻き込まれ、空高く飛んでいった。
騎士は剣を振るい、ドクロにも変わらぬ敵意を向ける。
狭い路地裏であちこち飛び回るドクロ。騎士も狙いが定まらないようだ。
「なだかろおはのものいかせのこりはや!とかまこょち!」
そう叫び、騎士は飛翔、ドクロの頭上から剣を振り下ろしてくる。
撹乱に集中していたドクロはスムーズに回避する事ができた。騎士の動きを見定めながら、攻撃のチャンスを伺う。
「魔力攻撃が駄目なら!」
魔力を反射するなら、物理はどうだろうか。ドクロは騎士の胸元を蹴りつけた!
が、硬度も抜群だ。騎士はほとんど怯まず、剣を振るう。
バク宙しつつかわすドクロ。
「くっ…手強い」
辺りを見渡すドクロ。何か使える物はないか…。

…と、彼女はある物に目をつけた。
それは、騎士が出てきた鏡だ。先程から騎士はこの鏡の前に立ち、全く近寄らせようとしない。
つまり…あの鏡は騎士にとって重要な物なのだ。
「よし…!」
標的を鏡へと変える。まずは光弾を騎士に連発。
跳ね返ってくる光弾。ドクロは腕を構えて防御しつつ、わざとぶつかっていく。
「ぐっ…!」
苦悩の表情を見せる彼女に、騎士は妙な笑い声をあげる。
(今だ!)
今度は、騎士のすぐ近くに向かって光弾を発射!
光弾を反射できる騎士にとってドクロの光弾は一種の攻撃手段なのだ。逃さぬとばかりにその光弾の方へ走っていく。
その瞬間、鏡が無防備になる。
「かかった!!」
ドクロは飛び出し、鏡に拳を叩きつける!
鏡は割れ、周囲に破片を散らす。光を放ちながら飛び散る破片を見て、騎士は頭を抱える。
「たっまし!」
すると、騎士の全身が白く輝いていく。
両手を地面につけながら、落胆している。何を言っているかは分からないが、悔しがっている事は一目で分かる。
光となった騎士は少しずつ姿を消していく…。

割れた鏡を見下ろしながら、ドクロは息を切らしていた。
「結局何だったの…」



その後、ドクロは図書館で興味深い本を見つけた。
それは、今いるこの世界とはまた別に存在する異空間について記した本だ。
そこにあった異空間の一つに、全てが反転した世界、鏡の世界が記されていた。
その世界は鏡の向こうに存在し、百年に一度、鏡世界とこの現世が繋がると言われているらしい。
百年に一度の機会に巡り合ったのだろうか。だとすれば、とんでもない不運であった。
幸い街は元通りになり、人々も前と変わらぬ人混みをなしている。
全て元通りだ。





…吹っ飛んで、どこかに飛んで行ったれなを除いて…。