「部屋を探しているのかい? 」
小太りの男は、俺がウザそうにしているにもかかわらず、いきなり話しかけてきたのだった。探していたのは事実なので、俺は答えた。
「ん、まぁ、そうっすね。なんでわかったんすか? 」
「何となくだよ。実は今、ルームメイトを探してるんだけど、良かったらうちを見てみないかい? 」
ん~・・・てか、場所は何処なのさ?
ルームメイトを探しているというVincenzo(ビンチェンソ)と名乗る この男、イタリア出身で、ホテルの夜勤フロントとして働いているらしい。が、Vincent(ビンセント)と呼んでくれ、だそうな。そうかい、わかったよ。
奴が住んでいるというフラット(Flat、アパート)の場所は、Brixton(ブリクストン)。お世辞にも、お金持ちが住んでいる地域とは言えない。治安は、ロンドンでは1、2を争う悪さと言われている。
当時の俺は、そんなことはつゆ知らず、1週間に35ポンドなら見てみるだけでもと思い、この小太りイタリア人に付いて行ったのだった。
地下鉄の自動改札を出ると、ホームレス及びヤク中と思われる奴らが数人、視点の定まらないまま天井を眺めつつ朦朧と横たわっており、壁際には注射器が落ちていた。
地上に出ると、Earl's Courtとはまったく違う光景が目の前に広がった。有色人種、特にカリブ系と思われる黒人が多く、ラテン系やアジア系もちらほらいる。白人の割合は高くない。駅のすぐ脇にあるマーケットでは、袋いっぱいの鶏もも肉が、1ポンド99で売られていた。その他の食材も、Earl's Courtより2、3割安いようだ。
しかし、何やら物々しい雰囲気だな・・・
続く。
今からでも間に合う、英会話。