国をつくるという仕事/西水 美恵子


プリンストン大学助教授から世界銀行に転じ、


世界銀行副総裁まで務めた西水氏。


本書は、悪政により生まれる貧困撲滅の戦いを、


時に激しい怒りと氏が感動して涙したというエピソード


と共に綴られ、激しく感情を揺さぶられる。


本を通じて西水氏のゆるぎない信念・覚悟がビシビシと


伝わってくる。それはすごいこと。


その理由を自分なりに解釈すると、西水氏が言うように


原体験があるからこそ腹が据わるということなのだろう。


週末のある日、ふと思いついて、


カイロ郊外にある『死人の町』に足を運んだ。


そこは、邸宅を模す霊廟がずらりと並ぶイスラムの墓地に、


行きどころのない人々が住み着いた貧民街だった。

その町の路地で、ナデイアという名の幼女に出会う。


病に冒されたナデイアは、西水に抱かれたまま、静かに


息をひきとった。

下痢からくる脱水症状が死因だった。


安全な飲み水の供給と、衛生教育さえしっかりしていれば


防げたはずの下痢・・・。


家庭で簡単に作れる糖分・塩分配合の飲料水で、


応急手当ができたはずの脱水症状・・・。

その時の想いを語る西水の目に、涙が浮かぶ。


「誰の神様でもいいから、ぶん殴りたかった。


天を仰いで、辺りを見回して・・・。


その瞬間、あの子を殺した化け物が見えたのです。


きらびやかな都会がそこにある。


最先端をいく技術と、優秀な才能と、膨大な富が溢れる都会がある。


でも私の腕には、命尽きたナデイアが眠る。


悪統治。民衆など気にもかけないリーダーたちの仕業と、直感したのです」。


ナデイアの死は、西水の髄に火をつけた。


学窓に別れを告げ、貧困と戦う世界銀行に残ると決めた。


ナデイアが仕事の尺度になった。


「何をしても、必ずナデイアに問うのが習慣になりました。


生きていたら、喜んでくれるかしら。


あなたを幸せにできるかしら・・・」。


原体験のある人の発言は重い。


行動も本気さが違う。


使命を気づくに当たり、強烈な原体験を持っている人間とそうでない


人間では、気づきのレベルとその後の行動に大きな違いが出るのだろう。


そして、西水氏のミッションが、


「悪統治との戦いと良きリーダーの育成」


となり、より良き社会の実現のため自らを顧みず突き進む。


そして、西水氏の言うリーダーシップとは、


途上国の草の根で出会ったリーダーたち全てに、共通するものを見た。


「正しいことを正しく行う」情熱だった。


話や形は変わっても、皆それぞれの「ナデイア」を胸に抱いていた。


その情熱が信念の糧となり、ハートが頭と行動に繋がる。


心身一体、常に一貫した言動だからこそ、


民の信頼を受け、人々を鼓舞し、奮起した。



「正しいことを、正しいと判断でき、行動出来る」というのはリーダー


の素養として必須だと、改めて思う。


日本人で、これほど世界でリーダーシップをとっていた人がいた


ということに純粋に感動すると共に、大きな刺激を頂いた一冊。