今回はちょっと怒った記事を書きます。
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前立腺開発の後遺症患者、前立腺炎の患者、また
神経因性骨盤臓器症候群(NIS)の患者。
また、原因不明の坐骨神経痛や仙骨、尾骨痛を持つ患者、
直腸や肛門、陰茎などの臓器の異常を抱えている患者。
これらの病気には、骨盤の中に存在する
仙骨神経、骨盤内臓神経、陰部神経の異常が
何かしらの面で考えられるはずなのです。
だがしかし、これらの病気は医師による診断の結果
「原因不明、ストレスか何かが原因だろう」
と診断されてしまうことが非常に多いです。
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これらの疾患がいまだに原因不明なままなのは何故でしょうか?
それは実は、
「骨盤内の神経と筋肉の研究が、我々の思っている以上に進んでいない」
からなのです。
骨盤内の神経と筋肉、臓器はとてつもなく複雑です。
以下、それに付いて解説していきます。
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ではまず、骨盤内の大まかな神経の様子から見てみましょう。
http://image.blog.livedoor.jp/yosh999ai/imgs/6/a/6a8ab040.gif
これが骨盤内の大まかな神経の配置です。
注目すべきは「仙骨神経叢」という部位です。
神経叢というのは神経の集まり、という意味です。
ここでは省略されていますが、右下の「骨盤内臓神経」
という箇所から、更に複雑な「下下腹部神経叢(骨盤神経叢)」
という神経叢が形成されています。
以下の研究データが骨盤神経叢の分布をまとめたものです。
(PDFデータです)
http://www.jrsca.jp/contents/records/contents/PDF/1-PDF/p34-35.pdf
はっきり言って、複雑すぎます。
おそらく人間の持つ神経叢のうち、最も複雑な
神経叢と言っても過言ではないでしょう。
神経の分布が複雑すぎてわからないため、
ppとして省略されています。
しかも、直腸や膀胱、前立腺、背陰茎へ向かう神経は
このppという骨盤神経叢を通っていくため、
この骨盤神経叢を損傷するとこれらの臓器や
周辺の筋肉に異常を来たすはずなのです。が。
しかし、この骨盤神経叢が複雑すぎるために
どの神経がどの臓器、その筋肉の、どの部位に
繋がっているのか全く検討が付かないのです。
例えば膀胱や前立腺、陰茎背神経に繋がる神経は
確実にこの骨盤神経叢を通っていくのですが、
骨盤神経叢の中でどれがどの神経なのか、全くわからないのです。
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更に厄介なことに、この神経の断裂はMRIなどの
外部からの画像診断ではほぼ判断が出来ないのです。
更に更に厄介なことに、この仙骨神経叢、骨盤神経叢は
末梢神経の集まりですが、一度断裂したりすると
再び再生することが無いと言われています。
(通称、末梢神経は軸索断裂では自然再生すると言われています。)
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また、これらの骨盤神経叢をから少し離れて、また前立腺の
近くを通って会陰部や陰嚢、陰茎へ分布する「陰部神経」
というものも存在します。それが次のようなものです
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/ca/30a0fec092cc79695b9dbde60ea1c7e8.jpg
この陰部神経も、一度断裂すると仮に神経縫合をしたとしても
再生することは無いと言われています。
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ここまでは骨盤内の神経について書いてきましたが、
次は骨盤内の筋肉について勉強して見ましょう。
以下のページに下腹部の筋肉の様子が詳しく載っています。
情報処理推進機構:教育用画像素材集 - CGで見る生物のしくみとはたらき - ヒトの筋(すじ) - 腰部・下肢帯の筋(ようぶ・かしたいのきん)
その中でもこの辺を見れば良いでしょう。
http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/a-cg/a-400/a-450/a-455.jpg
これはまた、相当複雑です。
しかもここに載っている筋肉や肛門や会陰部、陰部の
付近に分布する筋肉を省いてあります。
肛門付近の筋肉の配置は以下の通りです。
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/anatomy/Rauber-Kopsch/web/2-27.html
これもまた、相当複雑です!
このように骨盤内や肛門周辺には複雑な筋肉が
何重にも折り重なるように存在しているのです。
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そして、これらの複雑すぎる神経と複雑すぎる筋肉が
どのように関係しているかを調べる方法は、意外と多くありません。
というか、たった一つしかありません。
それは、
「麻痺していると思われる筋肉に針電極を刺し、筋電図検査をする」
の一点に尽きます。
MRIのような画像診断では静止居ている写真を見るため
麻痺や機能異常を見つけることは出来ません。
また、もし深層筋に麻痺が起こった場合、その働きは
外部の随意筋の無理な活動によって代価できてしまうので、
たとえ特殊な姿勢で画像診断をしたり、動体検査をしたとしても
伸層筋の麻痺は見つけることは出来ないでしょう。
そこで残る方法が、この筋電図検査だけになってしまうのです。
この筋電図検査、神経の伝達を診るため
無麻酔で行わなければなりません。とっても痛いです。
さらに、何重にも重なった筋肉の中の特定の筋肉の麻痺を
調べる場合、かなり深く、しかも目標を外さないように正確に
針電極を患部に向けて差し込まねばなりません。
熟練の技が必要です。
そしてこの筋電図の検査も、ノイズが入りやすく読み取るだけでも
かなり判別の困難な代物なのです。実際読み間違いも頻繁に起きます。
更に針電極の刺し間違いという可能性も常に有ります。
このように、無麻酔で針を刺しものすごい痛い検査をしながら、
読み取れるデータに信頼性がもてない、というのが筋電図検査なのです。
誰もやりたがらないのも無理はありません。
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このようにあまりにも複雑すぎて、研究しがいのありそうな
骨盤内の研究が、意外にも進んでない理由とはなんでしょうか。
理由は至極単純です。
「めんどうくさいから」
「命に関わることが少ないから」
これだけの理由です。
骨盤内の神経や筋肉の研究が難しいのは先ほど述べました。
ただでさえ分厚い骨盤に囲まれて検査のしづらい骨盤内部を
痛くて正確性の低い検査法で行うのは明らかに利が少ないです。
医者や研究者で誰もやりたがらないのも無理はありません。
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また、これらの疾患が直接命に関わらないのも大きな理由です。
もし酷い便秘になっても、下剤を飲めばよい。
もし肛門痛や陰部痛が酷くなっても、我慢すればよい。
もし排便障害、排尿障害が起きても、最悪人工肛門や人工尿道にすればよい。
酷いようですが、実際にこれが現在の医学界の
結果的な見解となってしまっているのが現状です。
確かに前立腺癌や直腸癌は直接命に関わる病気です。
それにより、医師や研究者の関心は、
「いかにして癌や悪い患部を摘出するか。」
「いかに神経を傷付けず手術するか。」
といった事柄に対してばかり向きがちです。
反面、骨盤内の神経疾患や筋肉の麻痺については
医師や研究者の関心の対象となることが少なくなります。
実際、骨盤内の神経、筋肉に関する論文の数は
他の医学論文の数に比べて圧倒的に少ないです。
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しかし、実際に骨盤内の神経異常によって
副交感神経の働きに不全をおこしていたケースも存在します。
(この場合は遺伝子異常が原因ですが・・・)
http://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/049090582.pdf
(PDFファイルです)
このような現象もあるため、骨盤内の神経の
研究はもっと積極的になされるべきだと考えています。
例えば、現在原因不明は肛門疾患として知られている
肛門挙筋症候群
などは、私は明らかに肛門周辺の
神経麻痺や神経異常が原因だと考えています。
しかし、その原因を究明しようとする研究者が居ないのです。
残念なことです。
また、骨盤内の神経は脊髄から伸びる神経の内で
数少ない副交感神経支配の神経です。
この領域の神経の研究を進めることで、現在原因不明とされている
自律神経失調症の新たな原因解明にも繋がるだろうと考えています。
そんなわけで、私は現在も骨盤内の仙骨神経・骨盤内臓神経
陰部神経についての研究や治療を積極的に行っている。
高野病院
さんについて今後とも応援して行きたいと思っています。
それでは、今後、骨盤内の神経について研究を進める
研究者が一人でも増えることを願って、シメとさせて頂きます。
研究者のみなさま、どうかよろしくお願い申し上げます。