私はこのブログでドライオーガズム後遺症に対して、
「脳内オピオイドの過剰分泌による大脳辺縁系の機能低下」
を主張してきましたが、医学界では脳内オピオイドが悪影響を与えることはほとんど支持されていない説です。
それは何故かというと、脳内オピオイドの代表である、エンドルフィンに次の二つのような性質があるからです。
①エンドルフィンは血管脳関門を通過しない
=エンドルフィンは血流によって他の部位に運ばれないため、大脳辺縁系に届くことは無い。
②エンドルフィンはペプチダーゼによって簡単に分解される
=麻薬のように脳内に残存することが無いため、悪影響を及ぼしづらく、また他の部位へ運ばれない。
という理由からです。
なるほど確かにエンドルフィンはGABAニューロンとのドーパミン報酬系以外には関与しないように思えます。
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ではドライオーガズムによるうつ病は何故起きるのでしょうか?
一般的にうつ病は、ストレスに対抗して副腎皮質からコルチゾールという、いわゆる
「抗ストレスホルモン」
を分泌させて、このホルモンが海馬を萎縮させてしまうことで起きる、という説が有力です。
また、PTSDによる認知障害なども、このコルチゾールが原因といわれています。
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このコルチゾールというホルモンが分泌される経路は
視床下部→脳下垂体→副腎系
という流れになっています。
また、視床下部です。
具体的には視床下部が下垂体にホルモン分泌指令を出し、下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが出され、
それを受け取った副腎がコルチゾールを分泌し、それが血流に乗って大脳辺縁系へ届く。という流れです。
やはりこの場合でも視床下部の異常刺激によりコルチゾールの分泌量が増え、うつ病が起こる、という可能性は否定できません。
また、このコルチゾールは朝に多く分泌されるという性質があります。
朝というと起床時、副交感神経が交感神経に切り替わる時間帯です。
コルチゾールの分泌に副交感神経が関わっているのなら、催眠状態においてコルチゾールの大量が起こったとしても不思議ではありません。
また、コルチゾールは扁桃体には作用せず、海馬だけを萎縮させると言われています。
これは、ドライ経験者が抑うつ状態を呈さずに認知障害や注意・集中低下を示す現象ともマッチしています。
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つまり、ドライオーガズムの後遺症によるうつ病は、
副交感神経を無理矢理刺激したことにより視床下部の自律神経機能に異常が起き、
コルチゾールが大量に分泌され海馬が損傷されたことで生じる、と仮説を立てられるのです。
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しかしやはりここで謎が残ります。
コルチゾールは抗ストレスホルモンであり、過剰なストレスがかかっている時に多量に分泌されると言われています。
催眠状態や副交感神経の刺激のような過度なリラックスによって分泌されるのか?という疑問が残ります。
また、これは脳内オピオイド説でも同じことが言えます。
脳内のエンドルフィンのような内在性オピオイドはストレスに対して脳をリラックスさせるために分泌されます。
この場合でも、過度な副交感神経の刺激により脳内麻薬が過剰に分泌されるか、というと謎なのです。
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ただし、ここで面白いことがあります。
このエンドルフィンとコルチゾールはストレスに対して同じように反応するのです。ただしその理由は真逆なのです。
エンドルフィンはストレスがかかり交感神経が興奮した時に脳をリラックスさせるため、つまり落ち着くために分泌されるのです。
逆に、コルチゾールはストレスがかかり交感神経が興奮した際に、血糖値を上げて血圧をあげる働きがあります。
つまり、より攻撃的になるために分泌されるのです。
同じ交感神経の興奮でもこのように真逆の反応が起きるのです。
よく考えれば体は興奮しつつ自制しなければならないのであたりまえなのですが、
何らかの理由でこのエンドルフィンとコルチゾールのバランスが崩れたらどうなるでしょうか。
そして視床下部や脳下垂体の機能異常は、この脳内麻薬とホルモンのバランスの崩れを起こすのではないでしょうか。
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今回の考察では、ドライオーガズムの後遺症として、
無理な副交感神経刺激によって視床下部の機能異常が起こり、
自律神経を維持する機能に異常をきたし、
それに伴う形で抗ストレスホルモンのバランスの崩れが起こり、
結果としてうつ病が引き起こされたのではないか。
という仮説が立てられました。
つまり、自律神経失調により副腎皮質ホルモンの分泌に異常をきたし、うつ病になるのです。
一般的にうつ病になるプロセスと逆のプロセスだと言えるでしょう。
この場合、視床下部と脳下垂体の機能障害が起き、体内のホルモンバランスが崩れているので、自律神経やホルモンの検査、治療をすることが必要でしょう。
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また、脳内のオピオイド、エンドルフィンやエンケファリン、ダイノルフィンについても、それについて全く無害だとは考えていません。
これらのオピオイドが何かしらの悪影響を与えている可能性についても、今後引き続き考えていきたいと思います。