グリーンマイル | ドナドナ雑記帳

ドナドナ雑記帳

舞台、映画などの感想書いてます。※基本的にネタバレ注意※

 

 人は皆、自分のグリーンマイルを歩いている――。

 

  小さい頃に見た記憶があったので、懐かしく思って観ようと決意。 実はずっとこの映画を勝手にホラー映画だと思い込んで避けていた。小さい頃の私には口から虫的なものが出てくるのが衝撃的だったのだろう。成長してホラー映画に目覚めた私は、先日ふとそれを思いだして、意気揚々とツタヤに足を運んだのである。3時間後、まさかあんなにボロボロに泣かされるとは思ってもみなかった。

 

 物語の舞台は1935年の死刑囚の監房。トム・ハンクス演じる看守ポールは、黒人の大男ジョン・コーフィー(マイケル・クラーク・ダンカン)に出会う。ジョンの罪は「双子の幼い子どもを強姦して殺害した罪」だった。ジョンは「コーフィーの綴りはコーヒーとは違います。」と大男らしからぬ繊細さで挨拶をする。その体格や時代背景から、ろくに話も聞かれず、弁護もされないまま、死刑の判決を受けたジョン。その目は深い海のような慈悲のある目をしている。

 その後、ひどい尿路感染症に悩まされていたポールは、ジョンの“奇跡の力”によって病気を治癒させる。同じ監房にいるドラクロア(マイケル・ジェッタ―)に懐いていたネズミのミスター・ジングルスが死にかけた際も、見事に生き返らせる。

 こんな力を持っている男が果たしてそんな惨い罪を犯すだろうか?ポールをはじめとする看守たちは次第に疑問を持つようになる。もしかして自分たちのほうが罪深いことをしようとしているのではないか――、と。

 

 時代背景

 まずこの物語の時代設定が1935年(原作では1932年)という点に着目したい。アメリカでの黒人差別は根強い。イギリスを始めとするヨーロッパ諸国から開拓民がアメリカに渡り、彼らに奉仕する奴隷としてアフリカ大陸から強制的に黒人が連れてこられた。1776年にアメリカ合衆国として独立してからも、長年の間、有色人種を差別することは彼らにとって“当然”だったのだ。

 1865年に終結した南北戦争を契機に黒人奴隷の解放が実現したとされるが、それも表向きだけの話である。結局おおよそ1890年代から1960年代にかけて、人種分離法である“ジム・クロウ法”、いわゆるアパルトヘイトがまかり通っていた。そして現代においても人種差別はアメリカにこびりついている。

 この映画の時代背景である“1935年”はまさにそのまっただ中。それに加え1929年に始まった世界恐慌や、ナチスドイツの台頭、国民の戦争に対する恐怖、不安。国全体が精神的に不安定な状態だったのは言うまでもない。

 

 たとえば実際の事件の中で、このグリーンマイルを彷彿とさせるのが今から約70年前、1944年に死刑台に送られた14歳の黒人少年ジョージ・スティニーである。彼も2人の白人少女を殺害した罪をきせられた。小柄な彼に電気椅子はあまりにも大きく、高さ調節のために彼は自分の持っていた聖書の上に座らされたという。そして2014年、70年の時を経て、彼の罪は再審で破棄された。

 こうした時代背景を知ると、ジョン・コーフィーという人物にもっと寄り添える気がする。

 

 マイケル・クラーク・ダンカンの死

 2012年、ジョン・コーフィー役のマイケル・クラーク・ダンカンが54歳の若さで亡くなった。アルマゲドンなどにも出演していた存在感のある役者さんなので、彼のことを一度でも見たことがあるという人は多いと思う。とてもさみしい。もうジョンはいないのだ!語る目、湿った黒い皮膚、なによりあの体格は、誰にも真似できるものではない。

 彼は、シカゴの貧民街でシングルマザーの母とともに幼少期を過ごし、病気を患った母親の治療費を稼ぎ全快を待ってハリウッドへ。1995年、37歳の時にスクリーンデビューを果たした遅咲きの俳優だ。アルマゲドンが1998年、グリーンマイルが1999年の映画なので、一段飛ばしにスター街道を駆け上ったといっても過言ではない。

 まるで見る側の恐れや不安を、凪のような瞳で奪い取ってしまう、そんな力を持っている。きっと彼は映画の神様に見初められたのだろう。人生の層の厚さを感じるマイケル・クラーク・ダンカン。ぜひ吹き替えでなく、字幕で見てほしい。彼の声でこの映画を見てほしい。

 

 

 トム・ハンクスやマイケル・クラーク・ダンカンの他では、私の推しメン、ブルータス(デヴィット・モース)を紹介しておきたい。ブルータスはポールと同じく看守で、ポールの相棒的存在。ブルータル(“乱暴者”)を自称しているが、必要に迫られなければ乱暴者は顔を出さない。無骨だが優しい。作中でその分かりづらい優しさを感じてほしい。アレにキュンとくる人は多いと思う!デヴィット・モースの出演作「ディスタービア」についても後日改めて記事にしたいと思う。

  

 

 

「グリーンマイル」 The Green Mile 1999年 アメリカ映画

原作 スティーブン・キング

監督 フランク・ダラボン

出演 トム・ハンクス デヴィット・モース マイケル・クラーク・ダンカン

    ジェームズ・クロムウェル ゲーリー・シニーズ(カメオ出演)