ここのところ、景気が回復に向かう。あるいは、底打ちした。というような

報道を耳にしたり、インターネットメディアを目にすることが何度かあった。



政府関係者は、これまで取った経済対策の効果があったことを強調し、

一時期、なりを潜めていたマネタリスト達は、早くも小さな政府を志向して

オピニオンを出すことを活発化することをはじめた。


「景気がそこを打った。」・・・じゃあ、
 ・金融機関の貸し渋りは無くなるのか?
 ・日立やパイオニアに産業再生法による資金注入はしなくてよいのか?
 ・下位の地銀のバランスシートの健全性に不安はないのか?
 ・派遣切りや雇い止めは無くなるのか?
 ・高校生・大学生の就職率は改善するのか?


こういうのを聞くたびに、何か忘れてないか?
と思う。


先日たまたま、1990年代半ばの新聞記事があったので、それを読むと、
そこには、景気が回復してきているということが明るいムードで
書かれていた。
大企業では、多数の企業で賞与の増額が見込めることなども書かれていた。



では、金融機関はその後どうなっただろうか?
大手企業は、その後どうなっただろうか?
雇用情勢は回復しただろうか?

その後の回復にあと10年近くも要した事実を思い出して、、
その記事に現れている楽観性がどれだけその後の対応判断に悪影響
を与えたか、とても考えさせられた。


(記事を書いた日経の記者は、今、そんなことを
 当時書いたことすら覚えていないだろう。)




その後、90年代後半には、山一證券・北海道拓殖銀行
などが再建の道を閉ざされて消えた。


北海道経済はいまだその後遺症を引きずっている。


金融機関は揃いも揃ってバランスシートの自力回復に躓き、
公的資金を頼って、辛うじて数年間決算を乗り切り続けた。

地銀や信金・信組などの一部はそれでも回復できず、景気の回復を
多くの人が実感した2000年代半ばですら、いくつかは消えていった。


大手都銀も再編の波に飲まれ、かつ、多額の公的資金を必要とした。
そして、その返済には2000年代半ばまで長い期間を要した。


りそな銀行は国有化され、現在でも公的資金は一部未返済となっている。
(国有化後は経営陣の刷新もあって、2011年には完済の見込み。
 http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003017&sid=aGZZG6_sh5Vc&refer=jp_japan


雇用については、「雇用なき景気回復」の言葉通り、就職市場が
売り手市場に転ずるのは、2006年頃までかかった。

しかし、高校生に関しては回復はしたものの、厳しい状況に
変わりなく、かつ、非正規雇用の比率があがり、総額人件費は
逆に減少に転じた。




景気ウォッチャーとしてタクシーの運転手の例がよく挙げられる。


私は2007年頃、彼らの口から、まだまだ厳しいと言う話を何度か聞いた。

「よくなっているのは、一部の大手だけですよ。」と。


今、底を打ったと話している人たちは何を尺度としているのだろうか?


経済学者は自分たちの物差しが何のために役立つのかもう一度考えた

ほうがいいと思う。