病因病機 ~七情~


2.七情


 七情とは喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七種類の情志や感情のことを指します。現在社会では、病院に行くと、この病気の原因はストレスですね。などと簡単に言われることもあります。また、現代病として精神疾患を考える必要もあると考えられます。確かにその通りで、先の七情が通常の心のキャパシティを超えて突然強くなったり、長期間に渡り精神的に負荷がかかると、精神的な機能不全が起こりやすくなります。中国医学では、さらに臓腑と精神の相互関係により臓腑等の機能失調が起きて来ると考えます。


 それぞれの対応する臓腑は次の通りです。
喜-心
怒-肝
憂-肺
思-脾
悲-肺
恐-腎
驚-腎
と五行の色体表通りになります。


 この七情による発病は、六淫による発病と異なります。六淫邪は、皮膚や鼻、のど、口から侵入します。そして、まずは風邪のような表証を引き起こします。しかし、七情が内傷したときは、まずそれぞれの担当する臓腑に影響が出ます。その後、その臓腑の気機を混乱させます。時には上逆、時には鬱結です。それにより気血の巡り、臓腑の機能を失調させます。


 ここで実は大変重要なことがあります。どの学術書などを見ても同様なことを書いています。しかし、あまりにもさらっと流されていたりしているので注意が必要です。それは、六淫は、口や鼻のどから、順番に侵入してきて最終的に臓腑に侵略しようとします。すなわち、侵入過程で退治することが可能なのです。しかし、七情は直接臓腑に影響を与えるのです。例えば、熱邪を例に挙げます。熱邪は身体の陽位を襲い、はじめは皮膚から順番に入ります。その時に汗をかいたり、発熱したり、様々な形をとります。経絡にはいると血を動かし、時には出血したりもします。そして、最終的に胆から、肝に入ると肝炎や他の肝臓疾患を発病します。これが、怒るという情志が身体に襲ってきたとき。どうなるでしょう。その怒りは、直接肝臓に入り損傷することがあります。すると怒りで目が充血し、顔も赤く、時にはめまいや意識不明と言った事態になることもあります。これは、怒りによって肝気が上炎したからです。


 さらに感情刺激は、心とも大きな関係があります。心は神志をつかさどり、全ての臓腑の長です。そのため心神が損傷されると他の臓腑にまで影響が及びます。


 精神疾患では、三つの臓腑に注目します。心肝脾の三つです。心は神志と血脈をつかさどります。肝臓は血を蓄え、疎泄します。脾は、気血を生化する源でもあります。この三つの臓が、精神的に発病を起こすとそれぞれの気機失調と気血の失調が見られます。

 例えば、悩み考えるという精神状態が身体に覆い被さってきたとします。すると考えるという精神は脾臓に影響を及ぼします。それが脾臓のキャパシティを越えると脾臓の働きを低下させ、食欲不振を引き起こします。それが気血生化を失調させ、気力不足を生み出すこともあります。また、その悩み考えるがさらに大きくなって、パニックのような状態まで来ると心を損傷させ、精神混乱や躁鬱と言った症状を引き起こすこともあります。

 肝臓に影響が出たときは、陽の出方と陰の出方があります。陽の状態とは、怒りの爆発です。爆発とは少しオーバーに書きましたが、表に怒りを表現してしまいます。肝臓は、五行で言うと木です。木は燃えやすく、すぐに炎上してしまいます。特に肝臓に病気があったり、疲労が溜まっている状態の時に怒りを外から与えられると炎上してしまうことがあります。この時の怒り方は、突然火が付いたようにわっ!と怒るという感じになります。もう一つの陰の出方と言いますとイライラという怒りの感情が肝臓にはいると肝臓の疎泄作用を抑鬱することがあります。すると肝鬱気滞という症状になります。この症状は、身体の隅々まで栄養を送り届ける疎泄作用が低下し、様々なものが流れにくくなります。様々なものとは、一つは血液、一つは飲食物。もう一つが、感情です。この感情が流れにくくなるために常にイライラが溜まってしまった状態になります。ただイライラが溜まっただけなら、まだ良いのですが、それが血瘀を生み出すと胸脇部痛、生理痛、生理不順、子宮筋腫などが発生する原因となります。また、この怒りの感情が内傷すると熱を生みます。熱を生むと津液を損傷し痰に変化することがあります。この痰が、身体のあちこちで止まると様々な疾患を生みます。この痰は、臨床的にはやっかいで、頭に止まると脳中風の原因となることもあります。

 では、ここで黄帝内経素問の挙痛論が、五志と臓腑について書かれていますので紹介します。


 怒則気上。激しい怒りは、肝気を上逆させます。肝臓は血と関係ありますので、気逆となると頭に血が上ります。文字通りの現象が起き、目の充血。顔が赤く紅揚する。吐血。意識がなくなり卒倒するなどの症状が出ます。


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 喜則気緩。感情の緊張緩和と心気をだらけさせるという意味です。喜ぶことは良いことで、通常は精神をゆったりさせ、精神の緊張を解きます。すると衛気も営血も流れやすくなります。ところが、過剰な喜びで精神疾患を生むこともあります。喜びすぎて、気が散ってしまい、心ここにあらずという状態です。子供だとわかりやすいかもしれません。嬉しすぎて、なぜかお母さんに怒られるくらいはしゃいでしまうと言う奴ですね。


 悲則気消。
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ひどい悲しみや憂いは、気をつかさどる臓腑の肺気を抑鬱します。抑鬱すると肺と心をつないでいる心系が損傷し、肺に蓄えられた営気や衛気が留まります。すると気ですから、熱気となって肺を損傷し、肺気が消えます。すると、息切れや声が出なくなったりします。


 恐則気下。恐れは嫌なものです。極度の恐れは、腎気を固めてしまいます。すると気が下から漏れてしまいます。これにより、恐怖から大小便の失禁が起きます。


 驚則気乱。これも腎臓の疾患となります。急に驚かされると失禁を生むだけでなく、心がよりどころを無くします。神の帰る場所がわからなくなり、混乱し、どうして良いかわからなくなります。この恐と驚は、ともに腎臓を損傷します。


 思則気結。思う考えるという、頭を使う精神状態が過度に起こり疲労すると神を傷つけます。すると脾を損傷し、気機が鬱結します。思うという感情は、心に留めます。これが過度になり、鬱結すると正気が留まって流れなくなります。これを気結と言います。この気結が起きると脾の運化作用が妨げられ、食欲不振を生み出します。また、腹部の腸満感、水液が滞るために軟便なども発生しやすい。クローン病などもそうですが、この原因から発生しているものもあります。

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 このように情志と臓腑は密接な関係にあります。しかし、西洋医学ではそれは解明されていません。現在社会を取り巻く環境では、ストレス対策があげられています。ところがこのストレスは目に見えないものです。つまり具体的な対策がとりにくいのが現状です。この問題は西洋文化の欧米社会だけが戦ってきたわけではありません。

 古くは仏教などの宗教が、この身体に悪影響を与えている感情に振り回されると良くないと気がつき、それに対する教えや修行も行っていました。波羅蜜の中にその教えがあり、禅定や忍辱というのがそれです。さらに中国医学では、その目に見えない心を乱されるストレスに対して、対策と治療法があるのです。中国医学の治療原則に扶正袪邪という考えがあります。この考えに乗っ取って治療を行うとストレスを邪ととらえ、正気を強くしていると邪を追い払う抵抗力も強くなります。すると、少々のストレスでは病気になりにくく健康を維持できるのです。しかも、その原因と状態を知るのに様々な弁証論治で治療方法を見つけることが出来ます。そして、身体の正気を強くして邪となっているストレスを追い払うのです。

 このことは、西洋医学の角度で見るとものすごい画期的なのです。中国医学の理論で、ストレスの種類とどこに悪影響を及ぼしているか、今後の予後などが患者自身が自覚を持ちながら理解できるのです。今後、臨床の場における精神疾患に中国医学が大きく関与してくることでしょう。



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