病因病機 ~六淫Ⅱ~


4.熱(火)邪


 熱邪と火邪はともに陽の盛んになった邪気です。中国医学では陽気を表す言葉に、温、熱、火を用います。温<熱<火の順番に陽気が強くなります。この邪は陽邪のため人体の上部を侵しやすい。熱を持つために乾燥させ津液を消耗させるます。自然界の火と同様に上昇気流を生むため風を生みます。また、動血しやすいとか、腫れを生じやすい等の特徴があります。


 火熱の邪は、夏の邪のイメージも強いですが、季節にとらわれることなく一年中発生します。外感で現れる風熱や湿熱などは、身体の陽の部位から侵入してきます。また、内生で生まれる火熱もあり、臓腑の陰陽失調を原因とすることもあります。火熱の邪は必ず脈が数脈や洪脈、滑脈など代表する脈がありわかりやすいが、治病求本の原則通り、どこが発生原因かを考えなくてはなりません。


 代表的な疾患は、高熱や四肢の痙攣、吐血等の、急性で症状の重い疾患が多いのが特徴です。しかし、それ以外にも関節炎や不眠、鼻出血といった多様な症状があります。治療は熱を取り去る清熱を行うことが多いですが、時には正治と反治の反治を使い、熱を持って熱邪を制することもあります。夏の暑い日に暑い物を食べて汗をかくと気持ちが良いというのと同じような感じです。


 また、火は五行では火行に属します。火行は心で、神志をつかさどります。そのため、火邪の影響で、精神疾患も起こすことがあります。



火邪や熱邪の性質には次の特徴があります。



①火熱は陽邪で、気を消耗させ津液を損傷しやすい。


 火熱はその性質からしても陽邪です。基本的には、熱の症状となります。この時の症状は身体の様々なものを陽の方向に動かします。陽の方向とは上方向はもちろん、外向きも陽の方向です。そして、体内の津液を外に押し出します。いわゆる発汗という現象です。そして、火熱邪は津液を外へ出すことと、熱によって津液を乾燥させてしまい人体の陰液を損傷します。さらに津液が体外に出ると、気も津液に乗じて流れ出てしまいます。ですから、夏の暑い日に外にいると何もしていないのに体力が消耗した感じがします。これは、火熱の邪気が、汗を出させ、それと共に気も外に漏れだしているから、体内の気が減少したのです。


 この働きが強くなると口渇喜飲と言ってのどが渇き冷たい物が飲みたくなります。小便短赤となり色の濃い小便が出ます。そして、大便は秘結と言って乾燥した便になって時には便秘になります。これも熱邪によって、体内の津液が消耗したからです。



②火熱邪は炎上の性質を持ちます


 火熱は陽の方向に動かすと先に言いました。先は外方向をお話ししましたが、今度は上方向です。火や熱は炎上の性質を持つのでエネルギーは上に向かいます。火熱の邪が侵犯すると人体の上部に症状が表れます。
 この時は、高熱が出て、特に頭部の熱感が強く、時にはズキンズキンと脈を打つような頭痛が出ます。また、喉の渇きや発汗なども見られます。陽明経に熱が上がった場合などは歯肉炎のような出血や腫れ、唇口のただれや口内炎などが見られることもあります。さらにこの炎上の性質は、神明を上炎させることもあります。すると心煩や動悸、不眠、病的な興奮。意識がぼんやり朦朧として、意味不明のことを言ったりします。これら、様々な症状が火熱によりますが、その範囲は上部に起こる症状に多く見られます。ただ、同じ上部の症状でも、火熱によるものは、陽の病症になります。具体的に言うと同じ頭痛でもきりきり痛いとかではなく、ズキンズキンと興奮的であったり、精神疾患も鬱よりも躁の状態となります。これは、火熱が陽邪で、炎上の性質を持つためです。



③火熱の邪は風を生みます。そして、血を動かします


 ここは、二つのことを説明します。一つは生風。もう一つは動血です。
 熱邪は風を生みます。火熱の邪が人体を侵すと、熱盛時に肝火を非常に興奮させます。もっと進むと肝風内動を起こします。この肝風が熱をより異常に引き起こした状態を熱極生風と呼びます。この症状が出ると頭の中を柳の木が風で揺らされるかのようなゆらゆらフラフラとしためまいが出ます。回転性のめまいとは違います。また、風邪の特徴も出てきますので、病気が善行し数変します。熱を伴った風なので、高熱が急に出たかと思うとうわごとを言ったり、手足が痙攣したりします。これが内風の働きです。


 血を動かすについても説明します。風が生まれると動血しやすくなります。血は寒により固まり、温または熱により行動します。火熱の邪が血脈に入ると、血脈を拡張させ、血行が加速します。さらに脈絡に入り損傷しますと、出血の症状を引き起こします。具体的には、吐血、血便、血尿、皮膚発斑、婦女月経過多、不正出血などがそれです。のぼせて鼻血が出たと言うのも熱邪の動血の働きによるものです。



④火熱邪は心神を乱しやすい


 心は五行の中で火行に属し、その五気は火です。ですから、こころと火は密接な関係にあります。火熱の邪が営血に入ると、心神に影響を及ぼします。精神疾患でも統合失調症などの妄想や混乱などが起きます。この精神疾患は、外邪によるものも内生によるものも共に発生します。また、軽度の精神疾患として、失眠があげられます。



⑤火熱邪は瘡癰(そうよう)を起こします


 火熱の邪は人体の血分を侵犯し、それが局部に集まると、血肉が腐食して、腫れ物の癰になります。熱が、身体に悪影響を及ぼすようになると熱毒になります。熱毒はひどくなると肉を腐らせます。肉が腐ると膿が出来ます。その膿になった状態を癰と言います。



 金元時代の劉完素は、火熱が多くの病変の原因と考え、火熱論を唱え、六気皆よく火化すると黄帝内経の六気を重点的に研究しました。火熱を降下させる涼剤を使うことが巧で、後世では劉完素の一派を寒涼派と呼ばれました。劉完素は漢方薬の寒涼剤だけを使用していたわけではなく、鍼灸や砭石を用いて瀉血を行い瀉熱法も行っています。極度の煩熱がある場合、昼夜熱が止まらなければ、両手の指の間の八邪穴を刺して、血を出す。これを八関大刺と言う。と述べています。この際に砭石を用いて行っていたこともあったようです。


 火邪、熱邪共に研究を重ねていくことで、現代の生活環境を取り巻く病症である精神疾患や腫瘍などを解決する糸口となることでしょう。


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