病因病機 ~六淫Ⅰ~


では、六淫の風、寒、湿、暑、燥、熱(火)をそれぞれ説明します。


1.風邪


 自然界において、風とは何ですか?風は目に見えない気の流れです。身体の中で、気は昇降出入の動きをします。それは、リズムや流れる方向など、一定の法則を持って流れています。自然界では風が吹くと空気の流れが、時々はスピードが増し、時々は方向を変え、時々は逆向きに吹いて停滞させたりします。このようなことと同様なことが体内に発生します。一定の法則を持って流れている気が、混乱するのです。混乱するとどうなるか。気血の巡りが混乱しますので、めまいやふるえ、痺れ、肩こりなどと言った様々な疾患が起きてきます。


 風邪には、特徴があります。その性質は、よく動き一定の場所に固定していません。また、場所だけでなく症状もころころと変化します。また、風邪は陽邪のために身体の上部や表面の陽の部位に現れやすいです。さらに他の邪を乗せて、一緒に体内に侵入することがあります。そして、発病が急であり、変化も早い等の特徴があります。まさに自然の風と同じ現象を起こします。これらの症状を診て、風邪と分類した方の思考回路はどうなっているのでしょう。


 風邪は臨床では風邪単独の侵入はどちらかというと少なく、寒、熱、湿と併せて一緒に入ってきます。そして、様々な症状を引き起こします。


 代表的な疾患に風寒、風熱による感冒、風寒湿によるリウマチ、風疹。などがあります。


風邪の性質には次の特徴があります。


①陽邪、開泄、易襲陽位


 風邪の特徴は、第一に陽邪だと言うことです。この時の陽とは、運動性でじっとしていない。上向き。外向き。と言うことです。そして、開泄の性質とは、皮膚腠理の汗腺を開いて汗を出しやすい状態にあることです。風邪は鼻、口、のど、皮膚から体内に侵入します。そして、経脈や絡脈を経て臓腑に侵入しようと向かいますがもし、体内の正気が強かった場合、皮膚のすぐ下で止まることになります。この時、外邪が侵入しやすいように皮膚腠理を開かせる働きがあります。最後に易襲陽位を説明します。この陽位とは、皮膚であったり、頭部、背が陽位になります。風邪はこの部位から侵入します。ですから、なんか頭が痛くなってきた、肩がこってきたと言う場合も時には風邪による物であったりします。


②善行し、数変します


 風邪の起こす病症の特徴として善行と数変があります。善行とは、病位が動き一定でないことです。数変とは急に発病し、病状の変化が早いことを言います。ですから、風邪が侵入し正気が弱いとすぐに中に侵入してきます。
 例えば、風邪をひいたとき午前中、ちょっとのどに違和感があるなと思っていたのが、昼過ぎには頭痛があり、夜には肩こりがひどくなり、咳や発熱が出てきたと言うことはよくあります。このように病症はすぐに変化します。また、リウマチも風邪による疾病ですが、この病気の特徴は、今日は手首が痛い、昨日は足首だった。などと痛みの場所が転々と変化します。これが、風邪は善行し、数変しますと言われる所以です。


③風は百病の長


 風邪は常に他の外感病を先導しています。湿、寒、熱とともに人体へ侵入してくることが多いです。それゆえ、風邪を六淫の先導者と見立て、百病の長と称します。



2.寒邪


 寒は、五行では水に属します。水の五季は冬になります。当然、冬は寒気に覆われた季節で寒邪の影響を受けやすい季節となります。ここで、冬の季節のイメージを意識してみてください。冬は冷える。気持ちが陰になりやすい。いろんな物が固くなる。暗い。という感じが出やすいです。この状態は寒気による影響も少なからずあると思います。では、寒気が邪に変化した寒邪はどのような邪なんでしょう。寒邪は陰邪のため、人体の下部に現れやすい。冷えや痛みを伴う症状が多い。気血が滞りやすく、筋肉が固くなりやすいという特徴があります。


 実際の臨床では、やはり冬に多く見られますが、冬だけの邪ではありません。夏季の冷房による寒邪の侵入も見られます。これらを外寒と言います。この外寒には、寒邪が皮膚のすぐ下に留まって衛陽を損傷するものを傷寒と言います。寒邪が皮膚のすぐ下ではなく、直接体内に侵入してくる症状を寒邪直中と言います。この寒邪直中によって、臓腑の陽気を損傷する症状を中寒と言います。また、身体の陽気が不足しても陰盛となり、寒が身体に多く生まれることもあります。これを称して、内寒と言います。


 代表的な寒邪単独での疾患としては、四肢の冷え。手足の屈伸がしにくい。下痢などの症状が挙げられます。治療は正治を用いて温めることが中心となります。温法や陽気を補う生薬が多く用いられます。


寒邪の性質には次の特徴があります。


①寒は陰邪で、陽気を傷つけやすい


 寒邪は陰性の邪気です。そのため、もっとも人体の陽気を損傷させます。元々、人体の陽気は、陰や寒を制約することが出来ます。寒邪が偏盛すぎる場合や、人体の陽気が不足していると充分に寒邪を追い払えず、寒証を発病します。通常は、寒邪に対して身体の陽気や衛気が寒邪の侵入を遮断しますが、これら陽気や衛気の正気より寒邪の勢いが勝った場合、寒証が現れます。もし、これが更に内部に直中すると急な症状が発症します。例えば、脾胃に寒邪が直中した場合、脾陽が寒邪により損傷され、嘔吐や下痢などの症状が起きます。


②寒の性質は、凝滞です


 寒い日には、人々の動きは活発ではなくなります。これと同様のことが身体の生命活動にも起きてきます。凝滞とは、凝結と滞るの意味です。
 気血は止まることなく体内を運行しています。これは気の推動作用が主に行い、温煦作用がそれを補助しています。寒邪が人体を侵犯すると経脈の気血を凝結、阻滞させ、気の作用を低下させます。不通則痛の原則により、痛みが生じます。


③寒の性質は、収引です


 収引とは収縮し、牽引するという意味です。寒は、陰邪ですのでその性質が強いです。陰は内側に向かうエネルギーが強く、その結果、寒邪が人体を襲うと、経絡や筋肉が収縮し引きつるような症状が現れます。さらに寒則気収と言われ、気の働きも縮こまります。この様に寒邪が侵食すると、皮膚、血脈、筋、肌肉、骨、経絡、臓腑、気血などあらゆるものが収縮します。皮膚が犯された場合、皮膚腠理の閉塞が起き、衛陽が体表に散布されなくなります。その結果、悪寒や発熱、無汗などが発症します。血脈が侵された場合、気血の流れが凝滞するので、頭身の痛みや局部の痛みが出ます。筋、肌肉、骨、経絡に寒邪が侵食した場合、引きつりや運動障害、感覚が無くなったりすることがあります。臓腑に入っても、同様に臓腑の働きが低下することがあります。また、寒邪は情志にも影響します。気持ちの収引が起きてくることがあります。



3.湿邪


 湿気は、目に見えず、どこにでも侵入してくる気です。寒邪と同じ陰の邪気ですが、寒邪と違い侵入を防ぐのは困難です。例えば、梅雨の季節。外は雨で湿気がすごい日だとします。窓を閉め切っていても、気がつくと湿気は部屋の中まで入ってきています。さらに書棚やクローゼットまで侵入し、中の書物や衣類まで湿気に侵されます。この侵した湿気は、なかなか乾燥しないので苦労します。しかも、湿気は目に見えず、熱気や寒気ほど感じ取りにくいのです。これは人体でも同じ事が起こります。そして様々な疾患を引き起こす原因ともなっています。


 湿邪の性質は陰邪です。そのため人体の下部に現れやすく、低いところ低いところへと流れていきます。重濁性や粘滞性からの性質を持ちます。そのため症状部位が固定されることと症状部位が流動するという相反する性質も持っています。さらに粘滞性の性質より症状が比較的治りにくく、熱、寒、暑邪と結びつきやすい性質があります。このことは自然界で言うと乾いたタオルで机を拭くと埃は取れますが、はたけばすぐに埃は落ちます。しかし、湿気たタオルで机を拭くと乾いたタオルより、よりしっかりと埃が取れます。しかも、付着した埃は湿気たタオルからは、はたいたくらいでは落ちません。しっかりと洗濯する必要があります。これと同様のことが、体内でも起きます。湿気が身体に多いと他の病邪を吸着します。そして、なかなか治りにくくさせます。


 脾臓はこの湿を嫌っており、湿邪は脾を侵しやすく食欲不振等様々な影響を与えます。
 湿邪の代表的な疾患には、身体の重だるさや湿熱による湿疹、風湿による関節痛等が挙げられます。日本は風土的に湿気が多いため、湿邪の関与が強い疾患は治療がやや難しくなりがちです。生活習慣と飲食に気を使うことが大切になります。



湿邪の性質には次の特徴があります。


①湿邪は陰邪です。気機を停滞させ易く、陽気を損傷させます


 湿の性質は水に属し、水は陰に属するので、湿邪は陰邪です。そのため湿邪が侵入すると身体の陽気を損傷しやすくなります。この陽気は運動性であったり、身体を暖めたりする働きがあります。その働きが低下し、動きが重濁な感じになったり、局部の冷えが起きたりします。湿邪が人体を侵犯すると、臓腑、経絡、陰の部位に滞留します。そのために最もその部位の気機を阻滞しやすくなります。例えば、湿が胸部にある場合、胸悶感や喘息。湿が脾胃にある場合、腹脹や水様の下痢、消化不良。下部に溜まると腰痛や水腫となります。


②湿邪は重濁の性質を持ちます


 重とは、身体が重たい、四肢の倦怠感、縛られたような頭重感というような、重たいとかだるいとかいうような症状が見られます。
 濁とは、混濁という意味で、湿病の場合の排泄物や分泌物などは汚く濁るという特徴があります。顔のくすみや目やになどもこの性質によるものです。
 この重濁の性質の湿邪が経絡や関節に滞留した場合、その部位が重いだるいという症状を生み出します。また、小便混濁や下痢、大便に血の粘液が混じると言う症状が生まれ、帯下が多くなったり、子宮内膜症を引き起こしたりします。湿邪が肌表にある場合には、湿疹や皮膚表面から体液の分泌を伴ったアトピー性皮膚炎が起きます。


③湿邪は粘滞の性質です


 粘とはねばねばすること。滞は停滞のすることです。
 湿邪の粘滞性は、湿病には二つの現れ方があります。一つは粘滞性の病状を表します。粘滞にあると排泄物や分泌物が滞り、爽やかでなくなります。もう一つには、病気の経過が長くなり、治りにくくなります。湿はその粘滞性のために、膠着するとなかなか解けず、なかなか治らず、あるいは何度も繰り返すなど、病気の経過が比較的長くなります。


④湿邪は下に向かい、陰位を侵します


 水は低いところに流れるように、湿も水の一つの種類であるので、湿邪は下に向かうする特性があります。だから湿邪は人体の下部を傷つけやすい性質を持ちます。その症例として水腫があります。そして、この湿邪は水の一種で、水と同じ流動性も持ちます。すなわち、起きて活動しているときは、下の方である足に湿邪が溜まります。椅子に座って作業されている方は、腰に溜まるかも知れません。しかし、夜の睡眠時には横臥すると背中や頭の方に湿邪が流れ、停留します。すると、朝起きたときに背中や腰がだるくて痛い。しかし、活動を始め湿邪が下に向かい出すと背中は段々と楽になって、その代わり、足が浮腫むという症状が起きます。これは、湿邪の下に向かうという性質によります。



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