911 | ドクター鈴木・あめぶろ研究室

911

 私はニューヨーク市内に二つの会社を持っている。一つは1995年設立、もう一つは今年の春に起業した。いずれもインターネット関連の小さな会社である。今回は、95年設立の、私以外の社員は4人の小さな会社に関連したことを書く。


 その前進の個人商店の設立は89年であるが、登記したのが95年。考えるまでも無くもう10年やっていることになる。直接的にはインターネット関連の商売をやっているが、日本では結構甘かった「知的財産権」の管理をアメリカの法律の下できちっとやっておきたかったことと、私の夢であるところの「老後のアメリカ移民」の足がかりとしてのことであった。


 2000年初頭、私は日本のある大学と共同で「防疫装置」を開発していた。大学が特許申請をしないというので権利が全部自分のところに来た。日本の他に、米国と欧州で特許申請をした。その窓口が、上記のニューヨークの小さな会社である。米国向け特許申請を書き上げてしばらくして、911のテロが起きた。


 ニューヨークの事務所はマンハッタンにある。WTCからは距離があるが、同じ「マンハッタン島」の一角である。マンハッタン島は大きな一つの岩でできている。しかもニューヨークは地震が少ない。したがって、WTCに飛行機が突っ込んだとき事務所は結構揺れたようで、現地からの第一報は「地震あり」とあったぐらいだ。島から外に出る交通が遮断される、という話があり、私は電話で現地従業員に「しばらく事務所を閉鎖するから対策した上で早く島から出ろ」と指示をした記憶がある。


 WTCには、金融機関など、弊社がお世話になっている事務所が数件入居しており、邦人の友人も多く勤務していた。そのほとんどがテロの犠牲になった。以来9月11日(日本時間では11日深夜からの24時間)は私にとって鎮魂慰霊の一日となる。


 その後米国で「ANTHRAX(たんそ菌)」の騒動が勃発した。郵便物は少しでも怪しい雰囲気のものは配達拒否。巻き添えで日本からの荷物なんかもなかなか届かない。連絡手段は「Fax」か「メール」、荷物の運搬は宅配が使えず「人間が人力で」ということになる。米国事務所の業務はかなり停滞した。


 そんなある日、我が家にアメリカから電話があった。しかも「通訳付き」の電話である。


 こちら米国○○省からおかけしています。ドクター鈴木はご在宅ですか。
 いえす、鈴木すぴーきんぐ。
 日本語で結構です。申請番号△△の特許の詳細につき確認をしたいが。
 は?特許庁ですか?
 いえ、○○省です。あなたの特許技術は軍事応用は可能ですか?
 想定外ですが・・・日本で開発したものですから一応民生用を視野に入れています。
 なら民生利用前提でお話します。装置を一台試験導入したいが、輸出可能か?
 はぁ、不可能ではありませんが、でもいきなり何ですか?どういう目的に使うのですか?スペック詳細がわからないと何とも。


 私の開発した防疫装置、話題のたんそ菌の対策に使いたいという。私の装置はたんそ菌も除菌できる。連邦政府の関係者は学会関係からその技術が特許出願された話を知り、申請書にあったニューヨークの事務所で尋ねて私の日本の自宅に電話してきたわけだ(それにしても時差は考えてくれなかった・・当時午前3時)。
 

 水中のたんそ菌には効くが郵便物など濡らしてはいけないものには対応できない、ということを伝えると、相手はかなり残念がっていた。


 私も残念だった。私の開発技術がアメリカで活用、しかもテロ対策の最前線で利用されようとしていたのだ。たんそ菌が水中に入ったらいつでも言って欲しい、と思った。


 数ヵ月後、別の装置(防疫装置ではなく検知装置らしい)が納入されたという報道があった、と、ニューヨーク事務所の連中が残念がって報告してくれたが、ANTHRAX問題も無事解決して米国は再び活気が戻ってきた。


 911にまつわる、ここだけの内緒の話である。
 ではそういうことで。